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ますたーど
ますたーど
novelistID. 46067
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真っ赤なサンタクロース

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昔々あるところにとても可哀相な女の子が住んでいました。
女の子は早くに両親を亡くしてしまいました。
それだけでなく、引き取られた伯父夫婦に騙され、両親の遺産を横取りされたあげくに、家まで追い出されてしまいました。
追い出されてしまった女の子は、町のはずれにある小さな森の中の小さな古屋に住むことにしました。
埃まみれで、長年誰も使ってない様だったので女の子は日が暮れるまで掃除に励みました。
悲しい事もあったけど、今日から私はこの家と一緒に新しくなるんだと、一生懸命掃除をしました。
数日後、森で採れた果物を町に売りに来たときでした。町が一様にキラキラと輝いていたのです。
パン屋さんも、服屋さんも、雑貨屋さんも、町全体が輝いていました。なにより、子供も大人も、みんなみんな笑顔でした。
女の子は忘れていましたが、もうすぐクリスマスです。女の子は胸元に下げた小さな財布を覗き込みました。銅貨が数枚と買い物用の折り畳まれたメモが入っているだけでした。
女の子には贅沢をする余裕などはありません。
悲しくて悲しくて、今にも泣き出しそうな女の子は、売れ残った果物を抱えていつもより早めに帰ることにしました。
女の子は真っ直ぐに家に帰らずに、森の中で植物のツルや、小さな赤や黄の綺麗な木の実を拾いました。
木の実を一粒拾うたびに、女の子の瞳からも一粒零れました。
ご馳走は無いけれど、雰囲気だけでもクリスマスを楽しみたかった女の子は辺りが暗くなるのも気付かないくらい、たくさん拾い、たくさんたくさん零しました。
ふと、視線に気付き顔を上げました。辺りは真っ暗闇です。視線は一つだけではなく、たくさん感じました。
雲の切れ目から月明かりが射し、視線の主が分かりました。数十匹のトナカイが女の子を取り囲んでいたのです。
女の子が木の実を拾っていたのは、トナカイ達の餌場だったようです。トナカイ達は女の子を追い出そうと、少しずつにじり寄ってきます。
一匹のトナカイが大きな角を女の子に向けて、足で地面を一回、二回と蹴りました。
女の子はもうダメだ、ここで死んでしまうと思い目を瞑って自分の人生を恨みました。
その時です。空から何かが降ってきて、女の子の目の前に落ちました。「どしん!」というすごい音と、地鳴りがしました。
目を開けてみると、そこには赤い服に白髪のお爺さんが立っていました。お爺さんは2メートルくらいありました。サンタクロースでした。
赤い服はところどころ破れていて、すごく筋肉隆々でした。サイズが小さめなのか、ピッチリした服のせいで隆々な筋肉が、より隆々に見えました。
そしてこめかみの辺りから角が生えていました。でも、サンタクロースでした。
「私はサンタクロースです。お嬢さん、何か欲しい物はありますか?」
サンタクロースは優しい顔で女の子に問いかけながら、トナカイ達を薙ぎ倒していました。
女の子が思考を整理し終わる頃、サンタクロースは最後のトナカイにネック・ハンギング・ツリーをきめているところでした。
「欲しい物はありますか?」サンタクロースは泡を吹いて倒れるトナカイの横で女の子に同じ質問をしました。
女の子は「幸せが欲しい」と言いました。
サンタクロースは「難しいね」と呟いて
「自分が幸せになるには他の人も幸せにしなくてはいけない」と続けました。
「どうすればいいの?」女の子は他人を羨む事はあっても、他人の幸せを思った事などありませんでした。
「では、私と一緒に町の子供達にプレゼントを配りましょう。そして配り終えたら、貴女にもプレゼントをあげましょう」
そう言うとサンタクロースは、片膝をつき女の子に手を差し出しました。片膝をついてもサンタクロースの顔は女の子の頭よりずっと上でした。
サンタクロースと女の子は寒空の下、町の端から端まで走りました。
「どうでしたか?」町の子供達にプレゼントを配り終えたサンタクロースが女の子に尋ねました。
「みんな嬉しそうだった。・・・ありがとうって言われて胸の奥が暖かくなった」
女の子はプレゼントを貰って満面の笑みを浮かべる子供達を思い出していました。
子供達の中には女の子の事を知っている子供もいました。
今度一緒に遊ぼう、と約束してくれた子供もいました。
女の子はいつの間にか涙を流していました。
幸せは欲しがってばかりでは手に入らない。
でも、幸せを人にあげると知らず知らずに返ってくるのだと女の子は思いました。
サンタクロースは大きな手で女の子の頭を優しく撫でました。
女の子は体の水分が全部出てしまうほど大粒の涙をぼろぼろと零しました。
「この町にはもう一人子供がいますね」
女の子が泣き止むのを待ってから、サンタクロースが言いました。
女の子が泣き腫らした顔でサンタクロースを見上げました。
「付いておいで」とサンタクロースは歩き出します。
女の子はサンタクロースに付いていきました。
サンタクロースはとある一軒家の前で止まりました。
女の子には見覚えがある家です。少し前まで女の子が住んでいた家でした。
「この家の子供にもプレゼントをあげないといけませんね」
女の子はこの家での悲しい日々を思い出し俯いてしまいました。
「さあ、手をお出し」サンタクロースは片膝をつくと、プレゼントが入っていた袋ではなく、ポケットから出した物を女の子に渡しました。
女の子は両手で受け取り、まじまじと見つめました。
真っ赤なメリケンサックでした。
「幸せをあげたら自ずと幸せは返ってきます。あげればあげた分だけ返ってきます。たまに返ってこない時もあります。でも、忘れた頃にまとめて返ってきます。」
サンタクロースは諭す様に優しく、優しく女の子に語りかけました。
「貴女は伯父夫婦にもらった物がたくさんあるはずです。貰ったならば、返さなくてはいけません。わかりますね?」
サンタクロースは真っ赤なメリケンサックを女の子の指にはめてあげました。
「サンタクロースさん、ありがとう」
女の子はめいっぱい背伸びをしてサンタクロースの頬にキスをしました。
「プレゼントくれたから、お返しだよ」
女の子はプレゼントを貰った町の子供達の様に満面の笑みを見せました。
サンタクロースは頭をガシガシとかいて立ち上がり「メリークリスマス」と言いました。
女の子も「メリークリスマス」と言いました。
そして、女の子は自分の家だった扉を叩きました。