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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (61)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (61)イイデリンドウの登山バッジ


 「おっ。誰が通りかかったのかと思えば、
 昨夜泊まってくれた、べっぴんのお姉ちゃん達の2人連れか。
 いま山頂からの帰り道かい。飯豊連峰が誇る雲の上の、
 お花畑の様子はどうだった?。
 思う存分、たっぷりと満喫することができたかい」


 「はい。思う存分、綺麗なお花たちを楽しむことができました!」


 「それは良かった、なによりの朗報だ。
 また2人で飯豊山へ登ってきてくれよ。君たちのような美人なら
 いつだって、両手を上げて大歓迎するよ。
 あっ、ちょっと待ってくれ。君たちに今麓から届いたばかりの、
 とっておきのお土産を上げよう」


 昨夜泊まった避難小屋の前で、また顔を合わせたヒゲの管理人が、
飯豊神社からの下り道を急ぐ、恭子と清子を呼び止めます。
『なんだよ。とっておきのお土産って・・・』と、
たまも胸のポケットから顔を出します。


 「今朝たっぷり削ってもらった、かつお節のお礼だ。
 あれだけ有れば3日や4日のあいだ、
 お客さんたちにうまい味噌汁を提供する事ができる。
 お礼替わりに、この山に咲くイイデリンドウを形どった、
 登山バッジを上げよう。
 山小屋か、避難小屋でしか販売していない、ここだけという限定品だ。
 今朝出来上がって、麓から届いたばかりのホヤホヤだ。
 時間が経ったから、残念ながらもう湯気は出ていないがな。あっはは」


 ほらよ、と恭子と清子の手のひらに、紫色のイイデリンドウを形どった、
出来がってきたばかりの登山バッジを、大事そうに手渡してくれます。
『ありがとう、おじさん。また必ず登ってきます!』と、
清子も息を弾ませて答えます。


 「おう。また来いよ。
 初夏もいいが、飯豊山の秋の紅葉は、これまた最高だ。
 また来てくれ。胸ポケットの中にいる三毛猫も忘れずに一緒にな。
 気をつけていけよ。下りとは言え、登山道では最後まで油断は禁物だ。
 そういえば、500mほど下ったところにある
 ヒメサユリの群落はもう見たかい。
 ニッコウキスゲも一緒に咲いているはずだから、ちょうど今頃が
 見頃のはずだ」


 「そこが、実は、今回の私たちの一番の目的地です。
 楽しみは最後までとっておきましょうということで、
 2日目に残しておきました。
 下りながら、これからそれを満喫していきたいと思います」


 『そうそう。真打はいつでも、一番最後に登場するもんだ』と、ニンマリと
笑ったたまが、何げなく忙しそうに耳のうしろを洗い始めます。
『あれ、こいつ。耳の後ろを掻き始めたぜ』ヒゲの管理人が、
雲ひとつ見えない青空を見上げます。
『とても、雨が降るようには俺には見えないがなぁ・・・・』と、
晴れ渡った青空の様子を、ぐるりと見回していきます。


 「だが、晴れ渡っているとは言え、
 山の天気はひと時も油断はできねぇ。
 猫が顔を洗いはじめるのは、雨がやってくる前兆と言われているからな。
 ヒメサユリの花を見学したら、お天気が崩れる前に、
 早めに下の小屋まで、下っていったほうが無難だろう。
 じゃあな。本当に気をつけていくんだぜ。ベッピンのお2人」


 朝からギラギラとした太陽が、容赦なく照りつけているために、
稜線上の登山道には、昨日はうって変わった暖かさが立ち込めています。
避難小屋のヒゲの管理人に別れを告げた2人が、本来の登山道から
ヒメサユリの群落へ向かうための脇道に、やがて進路をとります。
脇道といっても登山道として整備されたものではなく、長いあいだにわたり
登山者たちによっていつの間にか踏み固められた、
ただ草のあいだを歩くだけの小道です。


 「ヒメサユリ街道なんて洒落た名前がついていますが、
 実際は、広大なヒメサユリの群生地へ寄り道をするために、
 登山者たちが勝手に踏み固めてしまった枝道です。
 群生地といっても、ドンと大規模にまとまって
 咲いているわけではありません。
 広大な斜面の一帯に、てんでに咲いているだけです。
 だから、お花にばかり気を取られていると、同じような景色ばかりが
 有るから、いつの間にか迷子になってしまうこともあります。
 綺麗な花には、落とし穴もありますから、
 そのへんは充分に気をつけてください。
 ほら清子。ヒメサユリの茎だけが、私たちの前方に見えてきました・・・」

 「ヒメサユリの茎だけが見えてきた?。
 本当だ。茎はありますが肝心の先端に、花がひとつも
 ついていませんねぇ・・・・
 あらら、一体どうしたことでしょう。無い。ナイ!。
 本当に花が無い!」

 「お~い。お姉ちゃん達。ヒメサユリの花の見学かい?。
 このあたりの花は、カモシカに食われてほとんどが全滅の状態だ。
 その先の『語らいの丘』を下ったあたりなら
 、ぼちぼちと咲きはじめているぜ。
 大雪の年は餌が不足をするために、腹を空かしたカモシカたちが
 みんなヒメサユリの花の新芽を食っちまうんだ。
 そういうわけだから、花を見るなら、
 気をつけて下っていけよ」


 「あら。ご親切にどうも。
 そういうあなたたちは、ここで何をしていらっしゃるのですか?」


 「ヒメサユリ街道の草刈りの作業中だよ。
 花の時期になると稜線上の登山道より、こっちの脇道を
 歩く人の方が多いくらいだ。
 しかし飯豊連山の登山の本番は、梅雨明けの7月の末からやって来る。
 本格的な夏登山がやってくる前に、こうして登山道を
 俺たちが整備しているんだ」

 「それは、それはご苦労様です。
 じゃ、その教えていただいた語らいの丘の先まで、
 行ってきたいと思います。
 おじさまたちも、お仕事のほうを頑張ってくださいね。
 では、ごきげんよう。さようなら!」


 「おう。ごきげんよう。
 気をつけて行くんだぜ。ヒメサユリよりも綺麗な別嬪さんたち!」


(62)へつづく