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「私たちが違うのって、きっと性別くらいのものなんじゃないかしら」
 ココアシガレットを咥えながらそう言う彼女に、一瞬躊躇してから「そうだね」と嘘をついた。声が違うこと、顔が違うこと、性格が違うこと、そんなことを全部知って、ひっくるめて言う彼女はぐうの音もでないほどの天邪鬼で、いつもと変わらない声音で嘘をつく僕も負けず劣らずだなあ、と屋上のフェンスに背を預けながら思う。
 隣の彼女は体育座りをしていた。足は伸ばすより縮める方が好きなのだそうだ。そして僕は全く、足を伸ばしている方が落ち着くのだった。だからこそ二人はこの体勢なのだし、本当に合わない。こんなとこでも僕らは違う。
「でしょう、絶対そうなのよ。性別が違うだけで私たちは自身同士だから仕方ないんだわ! 一緒に笑えないこと、一緒に泣けないこと、他人じゃなきゃ共感にならないもの」
 なんてことなの!と彼女はわざとらしく驚いてみせた。用意してきた台詞も、演技までは完璧とはいかないようだ。
「同じような二人が近づくなんて、少女漫画や、そうでなければお姫様や王子様が出てくるような童話くらいの話でしかないのよ。ちゃんちゃらおかしいのだわ」
 言い切る彼女を横目に、僕は静かにリンゴソーダをあおった。人魚のような泡が口の中で弾けて少し痛い。一気に飲んでしまったことにそれなりの後悔を感じながら、彼女に悟られないよう丁度いいのだというふうに堪えた。
瓶を床に置くと、まだそれほど落ちてない太陽を反射して綺麗に光る。中身が入っている間にもやってみたかったなあと思う。
 しばらくして、ボリッと音をたてて彼女はココアシガレットを齧った。催促の合図だ。僕が何も言わないと、「随分捻くれているのね」と彼女は顔を歪ませた。どっちがだよ、と言おうとしてやはり口を塞ぐ。彼女の言いたいことも伝えたいことも、同じ僕は全部わかっていたけれど、それを言うにはまだ早い気がしたのだった。
 一人の僕らはこれからもずっと近くにいて、傍にいて、それでも一緒に笑わないし泣かない。無色の僕らが同じ色に染まって、彼女のシガレットが煙を上げる頃、そのときようやく天邪鬼に捻くれて、きっと一生の約束を僕とは違う彼女と交わすのだ。だからそれまでは、まだまだ青い果実の僕ら。
作品名: 作家名:置き場