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運ぶのもと言えば

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 話は数日前にさかのぼる。
 一言でいうと俺たちは金欠だった。それまで就いていた短期契約の仕事が終わって収入がぱったり途絶えたのが原因だ。とにかく収入を得るために仕事探しに精を出していた俺は、とある仕事を見つけたのだった。
「荷物の配達。セルツ地区のフォスターって人の所にこれを運んで欲しいってよ」
 雇い主から受け取ったのは、どこにでも売ってる大きめのリュックサックが二つ。この中に依頼品が入っている。報酬もいいし、配達業なんて簡単なお仕事だ。だから、この仕事を見つけた時は俺ついてる! と思った。ただ一つの問題点を除いて。
「中身は何だ?」
そう聞いてきたのは仕事仲間で親友のリュスだ。配達業なのだから、中身が何か知るのは当たり前のことだ。割れ物とか入ってたら丁寧に扱わないといけないし。今回のは割れ物ではないのでその点は大丈夫なのだが、中身な。中身がなあ・・・・・
「ああ、えーっと、その・・・白い粉、みたいな?」
「・・・は?」
「そうだ! 小麦粉! 小麦粉だな!」
「・・・おい待て。その白い粉っていうのは」
 まさか、という顔でリュスが言う。いや待てその先は言うんじゃない。確かに雇い主は黒ずくめの怪しげなおっさんだった。届け物の割に提示された報酬も渡された前金も破格だった。裏通りの人目のつかないところでこっそり依頼品を渡された。依頼品がなんなのか聞いても教えてくれなかった(だからこっそり確認した)。依頼品こと火気及び湿気厳禁の白い粉(正体不明)。運搬先は・・・・
「この地域にはでかい麻薬密売組織が潜伏してると聞いたことがあるが?」
 届け先と地図を見て、リュスが疑わしいと言わんばかりの表情になる。うんそれは知っている。だが・・・・
「いやきっとあれだ。そのあたりは貧しい奴が多いから、そいつらに提供する食糧なんだよ」
「ならなんでこそこそする? 貧民救済用ならもっと堂々と運べばいいだろう」
 うん俺もそう思う。
「この仕事は怪しすぎる。いくら金がないからと言って危険な仕事を引き受けるのはごめんだ」
「・・・・でも前金貰っちまったし」
「返して来い」
「いやでももうないし・・・」
「なにか言ったか?」
 冷たい目で俺を睨むリュス。あ〜これはヤバい。こんなこと言ったら殺される。そう思いつつも、うまい言い訳を思いつけなかった俺は、観念して本当のことを話すことにした。
「うっかり使っちゃった☆ てへぺろ☆」
「・・・・・・・帰る」
 やった! 殺されなかった! と喜んだのもつかの間。リュスは荷物をまとめて去っていこうとする。その腰に俺は縋りついた。
「待ってー! 俺を一人にしないでくれぇぇぇ!」
「やかましい! 俺を犯罪者にする気か!」
「安心しろ! 俺も犯罪者ということになるから監獄にぶち込まれるときは一緒だ!」
「それのどこに安心する要素があるというんだ!」
「二人いれば監獄の中で退屈しなくてすむぞ。しりとりとかじゃんけんとか色々できる」
「とてもいいですね素敵です素晴らしい、どうぞ勝手にやっててください」
「いやいやいや! ひとりしりとりとかひとりじゃんけんとか寂しいから! しかしあら不思議! これが二人になると・・・」
「いい加減にしろ!」
 不毛な争いに嫌気が差したのか、リュスは頭を抱えてため息をつく。
 結局、俺はリュスを巻き込む形で運搬の仕事をすることになった。


 運搬一日目。
 俺たちはセルツ地区まで汽車で移動することにした。依頼主から必要経費として交通費をいくらか貰っていたからだ。これは非常に重要なことである。なぜなら徒歩で移動しなくていいからだ。以前、荷物配達の仕事を請け負ったときはかなりの距離を徒歩で移動する羽目になって死にそうな思いをしたので、交通機関を利用できるというのはめちゃめちゃ嬉しい。つーか天国。ありがとう依頼主。
「これで依頼品が本当にただの白い粉だったらいいんだがな」
 不安げに言ったのはリュスである。うんまあ俺もそう思う。結局、俺とリュスでは白い粉が麻のつく薬かどうか分からなかったから、危険物かどうか判断できなかったのである。なにしろビニール袋に入れてあるから見た目ぐらいしか判断材料がなかったし。
「全く仕事は考えて選べ。前やった荷物運搬の仕事もお前が仕事内容をよく確認しなかったから、あんなに歩く羽目になったんだろうが」
「えへへごめんね」
「やめろ気持ち悪い。だいたいお前は前金を一体何に使ったんだ。結構な額をもらったんだろ」
「・・・・あー、実家に送った」
 そもそも俺が出稼ぎ労働者をやっているのは、故郷の家族――妹三人弟二人姉一人の生活費を稼がなくてはならないからだ。俺の収入が滞ると、実家の生活レベルにダイレクトに響くので、送金を止めるわけにはいかないのである。
 今回はそれだけではないのだが。
「しかしお前、この間実家に送金したとじゃなかったのか。次の送金はもう少し先だろう」
「・・・・妹が病気になったんだ。治せない病気じゃないんだが、薬が存外高くて金がいるんだよ」
 それを聞いてリュスが黙る。黙られるとかえって反応に困るんだが・・・・
「ま、まあというわけで、前金のほとんどを家に送金しちまってな。いやぁ送る前にお前に一言いうべきだったな、悪かった」
 沈黙が痛い。沈黙が痛いよリュスくん。頼むからなんかしゃべって。
「えーっと、それでな・・・」
「わかった。次からそういうことは早く言え。薬代なら半額出してやってもいい」
「え!? 出してくれんの!?」
「貸すだけだ。利子つけて返せ」
「あ、そうですよね・・・・」
 妹が病気だっていう手紙を受け取って、すぐに送金しなきゃと思うのに金欠で、めちゃめちゃ焦っていたところにおいしい仕事が見つかって、よく考えもせず受けてしまった。その前に相談できるところに相談しときゃよかったわけで、そんなことにも思い当たらないくらい俺はテンパってたということだ。あー恥ずかし。
「ていうことはおまえやっぱり金あるんだな。金欠とか言ってた割に」
「生活費がなくなったんだ。貯金はそっくりとってある。ただ貯金に手を出したらいつの間にかなくなっていたということになりかねないからな。危なくなったらさすがに使うが」
「ってことは、前金でもらった分とりあえずおまえが出して仕事を断ればよかったんじゃないか? で、その分を後で俺が返せば・・・」
「俺にとって大事な貯金だ。人命救助のためなら構わないが、お前の尻拭いのためにびた一文でも出せるかと思っただけだ。それなら多少危険でも仕事をするほうがマシだからな。金を貰えるしいざとなればお前を囮にして逃げればいいことだし」
 ひ、ひどいなリュス・・・・。でもこいつを仕事に巻き込んだのは俺なので文句は言えない。それになんだかんだ言ってもこいつはいい奴だ。酒代とかそんなもののためには1銭だって貸してくれないが、ほんとにヤバい時は結構な額を貸してくれる(ただし利子は取る)。それでもって、こいつが出稼ぎ労働者なんてのになってまで、金をためてる理由というのが、
「大事な貯金か。婚約者との結婚資金を貯める為に頑張ってるんだもんな〜リュス君は。いいなぁ俺も可愛くてボインな彼女との明るい将来設計を立ててーよ」
作品名:運ぶのもと言えば 作家名:紫苑