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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 季節はさらに巡り、霧沢亜久斗、三十歳の年も紅葉の秋となった。
 古都京都を囲む山々もすっかり彩りを増し、その色合いはさらに深くなる。そんな時節にもなった十月の半ば、ルリから霧沢に一本の電話が掛かってきた。

 電話口の向こうから、ぽつりぽつりと話してくる。
 あれは春陽の四月のことだった。ジャズ喫茶店に霧沢君がひょっこりと現れた。再会できてとても懐かしく、また嬉しかった。
 しかし、その後花木宙蔵の事故死があり、友人として悲しく、やるせない気持ちの中で時は過ぎ去っていった。そして、もう秋ともなってしまった。

 ルリからの話しはこんな取り留めもない内容だった。だが霧沢は、きっとなにか辛いことがあるのだろうと思い、ルリを食事に誘った。
 そして、碧い秋の空が茜色に変わりつつあるそんな夕暮れ時に、霧沢は四条大橋でルリと待ち合わせをし、ルリに半年振りに会った。
 そこから先斗(ぽんと)町にある京会席料理店に行き、二人でゆったりとした夕食を取った。それは味善し、酒善し、会話も楽しいものだった。

 二人は充分満足し、今鴨川の川沿いの道を並んで歩いている。
 霧沢は学生時代のことを思い出す。あれは随分と昔のことだった。そう、それは大学三回生の頃のことだったと記憶している。
 あの時も東山にポンと淡黄(たんこう)の丸い月が上がっていた。そしてぼんやりとした月光が川面を照らしていた。
 霧沢はルリと並んで、ただただ無言で、四条大橋から今出川の賀茂大橋まで歩き続けた。ただそれだけのことだった。しかし霧沢は、今でもあの時の情景をよく憶えている。

 今夜もあの夜と同じように、東山の上に淡黄の月球(げっきゅう)が仄かに輝いている。そして二人は、こんなロマンチックな宵の幽光(ゆうこう)に包まれ、秋の夜風に吹かれながら悠々と歩を進めている。
「ねえ、霧沢君、……、あの時も、同じような風景だったわ」
 ルリも思い出したのか、切なそうに霧沢に声を掛ける。
「うん、そうだったかもな」
 霧沢には特に理由はないが、気のない言葉で返してしまった。そんな愛想のない返事、そのためなのかルリは黙り込み、二人の間に沈黙の時間が流れる。そしてその暫時の後に、ルリが沈黙を破って唐突に訊く。

「霧沢君、……、なぜなの?」
 しかし、霧沢は寡黙のままだ。ルリの目からはいつの間にか大粒の涙が。
 それらの涙は仄かな月の光りをその一粒一粒に詰め込み、輝きながらハラハラと零れ落ちていく。そして川面からの淡い反射光の中へと、それらはまるで真珠となり、吸い込まれる。

 ルリはそんな涙の愁いを、声に一杯滲ませながら、もう一度言葉を絞り出す。
「アクちゃん、……、なぜなの?」