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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 しかし洋子との関係には直接触れず、「いつぞや祇園の洋子の店に行ったらね、宙さんが描いたという青い絵、そうそう〔青い月夜のファミリー〕と言ったかな、それが飾ってあったよ」と、絵の話しをして遠回しに探ってみた。
「ああ、あの絵、見てくれたんだね。で、ちょっと意味深だろ」
 宙蔵はそう答え、後はニヤニヤと笑う。
 霧沢はそのニタついた笑いの方が意味深だと思いながら、いずれにしても訳がわからなかった。それでも「そりゃあ、良いことがあって良かったなあ」とさらりと返した。

「アクちゃん、ありがとう。で、時間を見付けては、今でもぼちぼちと絵を描き続けてるんだよ。そうだ、アクちゃん、俺のアトリエにちょっと寄っていかないか?」
 宙蔵が突然誘ってきた。霧沢はどうしたものかと迷ったが、京都の老舗料亭・京藍の主人となった花木宙蔵、そのアトリエがどのようなものかと興味もあった。「じゃあ遠慮なく、お邪魔しようかな」と応じた。
 宙蔵は笑い顔で、「それじゃ、アクちゃんの帰国祝いに、男二人で久し振りに酒でも飲むか」と言い、霧沢を誘導するかのように大股でさっさと前を歩き出した。霧沢はそれを追い掛けるようにして後を付いて行ったのだった。

 花木宙蔵のアトリエは賀茂川沿いの高級マンションにあった。
「まあ入ってくれ、片付いてないけど、気楽にな」
 宙蔵はドアを押し込みながら、そう言って招き入れてくれた。
「お邪魔しまーす」
 霧沢は中に誰もいないことはわかっている。だがとりあえずそう声を張り上げて、玄関へと入った。そして立ったまま靴を脱ごうとし、その身体を支えるために閉まったドアに手を差し伸べた。

 指の先がドアチェーンの台座に触れる。その時、霧沢はふと気付く。ドアチェーンの台座が緩み、ガタついているのだ。
 霧沢は大きな声で、すでに奥の部屋へと消えていった宙蔵に、「おーい宙さん、ここんとこのロック、緩んでるよ。すぐに直しておいた方が良いんじゃないか」と声を掛けた。
「ああそうか、そこに道具箱があるだろ、その中にドライバーがあるから、すまない、アクちゃん、それでちょっと締めておいてくれないか」
 宙蔵の姿は見えないが、大きな声で依頼してきた。
 霧沢は「はーい!」と二つ返事をし、下駄箱の上に放置されてある道具箱からドライバーを取り出し、その台座のネジを思い切り締め込んだ。そして「もうこれで大丈夫だろう」と確認し、部屋へと上がった。