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プリンス・プレタポルテ

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4.ベアトリス




ベアトリスはランチョンミートが嫌いだった。辛いし、臭いことのこの上ない。昔から彼女の母親はサラダに必ずこれをブロックに切ったものを混ぜるが、レタスの間に隠れたそれを一つ一つフォークで丁寧にはじき出しては、隣に座る妹のボールに放り込むのが常だった。さらにはこの前美容室で読んだ雑誌に「出来るだけ新鮮な食材を選びましょう。加工食品ばかり食べると、にきびの元になります」とはっきり書いてあったため、彼女はことさらこの塩辛い物体を警戒していた。色が白くて肌のきめが細かいことは彼女の数少ない自慢の一つであった。ただでもやせっぽっちで、なかなか役をもらえないのに、ここに吹き出物なぞ作って、アーネストの大きな手にざらりとひっかかる感触。想像しただけで泣きそうになる。
 そう訴えれば、アーネストはおかしそうに笑った。彼はどんなものでも心底美味そうに食べる男だった。実際、彼女の拙い手料理も豪快に掻き込むし、このランチョンミートもナイフで器用に蓋を切り開き、一缶分をぺろりと平らげてしまう。
「アフリカを一ヶ月旅すれば、すぐにこいつと仲良くなれるよ。1週間、これと歯が折れそうなフランスパンばかり食ってたこともある」
 白い脂身のついた親指を舐めるアーネストは、言った後悪戯っぽくウインクする。
「心配しなくても、君をそんな危険な場所に連れて行かないさ。俺が守ってあげる」



 今彼女は、塩分が多すぎるスパムの缶詰を何とか胃の中に収めようと苦しんでいた。
ボトルの水は残量が不安なので出来るだけ摂取を控えねばならず、掻き毟るような喉の乾きと口の中でべたつく脂を宥めるすべは無い。食べるのを中止するのが一番手っ取り早いが、若い身体は結局空腹に耐えかね、引き絞られる胃がしくしくと痛みを訴えている。
 毛足が磨り減った絨毯の上へ直に座り、缶詰の中身を口に運ぶ。火を通していないので獣臭さが際立ち、冷えた脂が缶の内側に膜を張っている様を見ただけでぞっとした。皿はないし、フォークにはいつのものかわからない汚れがこびりついている。こじあけた缶の切り口は、アーネストがやってみせたものとは比べ物にならないほどいびつで、触れただけで手を切りそうだった。彼女は伸ばした足の親指を見つめることで、かろうじてねっとりと冷たい肉の感触を堪えていた。