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一之瀬 優斗
一之瀬 優斗
novelistID. 28513
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破滅姫のコイゴコロ。

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神界エリア株式会社本社ビル地下一階。
喫煙ルームにて。



「おいっすー、お疲れー」
天使課の部長、山田さんが、火の付いてないタバコを指に挟んだ状態で喫煙ルームに入ってきた。
「あ、お疲れ様です」
「こないだはありがとうねー。結城君のおかげで、そっちの部長さん、あっさり企画通してくれたよ。助かった」
言いながらタバコに火を点け、深く吸い込む。
「いえ、僕はなにも」
「いやいや、結城君は鈴木部長のお気に入りだもん。俺が直接話すより、通る確率が格段に上がるもん」
煙を細く吐き出した山田さんは、にっこりと人懐こく笑った。
若くして部長のポジションについた山田さんは、年令も経験もほぼ倍な鈴木部長に、かなり気を使っている。
天使課と悪魔課はほとんどの仕事を共に遂行するため、とても友好的で仲が良いが、それでも縦社会意識がなくなるわけではない。
「悪魔課はどう?慣れた?」
「はい、皆さんとても良くして下さるので」
「まあそうだよねえ。良くしたくなるよねえ、この顔。本当に完璧に綺麗だもんねえ。さすが元死神課だねえ」
「いや、そんなことは…」
あらゆる人から何万回と言われるその言葉に、僕は何万回も同じリアクションを返す。
そしてこの、困惑と苦笑を交えた柔らかい否定が、相手に好印象を与え、保護欲をかきたてることを知っている。
「にしても、死神課の人達って、なんであんなに美形揃いなのかね」
マジマジと覗き込まれて、困ったように目を逸らしてみせる。
「なんていうか…見目が整っていた方が、魂が付いて来やすいみたいです。こう、ふらふらっと」
「はは、なるほど。確かに俺もふらふら付いて行きそうだ」
「天使課のみなさんだって、綺麗な人ばかりじゃないですか」
「あー、うちの課も悪魔課も見目麗しい奴は多いけどもさ。なんていうの、いつも見てると慣れてきて普通になってきて、そうすっと普通のレベルがとてつもなく高い所に設定されるわけよ」
と、相当な美形の山田さんがしみじみ呟くのは、中々にギャグだな、と心の中でこっそり思う。
「だけど、そんな感覚を持ってしても、死神課の人達はねえ。格?レベル?ハイだよねえ」
「山田部長って面白いですよね」
思わず吹き出すと、山田さんはまんざらでもないような顔をした。
「個性に特化しないと、心折れる気がしない?」
「尊敬します」
ナルシズムに沈まない人は好きだ。
「お。タバコもう終わる?もう一本吸う?」
「お付き合いします」
僕の手元を気にする山田さんが可愛かったので、顔を覗き込んで、ちょっと微笑んで見せると、山田さんはびっくりした顔で頬を赤らめた。
「お、おう。ありがとう。やー、結城君は本当に良い子だなあ」
いいなあこのリアクション。新鮮だ。
「山田部長って、部のみなさんからすごく慕われてますよね。みんな仲良さそうだし。僕、天使課に異動願い出せば良かったな」
「え、君が異動を希望したの?俺達はてっきり、鈴木部長に引き抜かれたもんだと…」
「俺達?」
「あ、ああごめん。結城君のことは、結構噂になっててね。もちろん悪い意味じゃなくて、少数精鋭でエリートの死神課からの異動なんて、そうある話じゃないからさ。しかも君は、すごく優秀だって聞いてるし」
「全然そんなことないですよ、僕も、他の死神達だって、結構普通です」
「いやいや、普通ってわけは」
「ないと思います?」
山田さんの目をまっすぐ見つめて、首をかしげる。
「部長は、僕のことを、どう思っていましたか?」
「え、いや、その…」
言葉に詰まって身を引く山田さんに、さらに顔を近づけた。
「僕は、部長のこと、ずっと素敵だなって思ってました」
「…は?え?!」
「死神課と、天使課悪魔課は、ほとんど接点がないし、天使課の部長さんに気軽に話しかけたりできないし」
「………」
「さっき、天使課へ異動願いを出せば良かったって言いましたけど、本当は出したんです。けど、通らなかった」
「な、なんで」
「鈴木部長が、こっちに降りてくるならうちへって強引に…」
悲しげに目を伏せると、山田さんの顔つきがちょっと厳しくなった。
「あの人にそんな権限あったか?異動の最終決定権は人事だろ」
「上の事は良くわかりません。僕は言われた通りにするしかないですから」
僕は、山田さんの手をそっと取って、それからふわりと微笑んだ。
「でも、こうして今、憧れの部長と二人っきりでお話出来ているんですから、すごく嬉しいです」
「………!」
(あ、落ちた)
頬と耳を赤く染めて絶句する様に十分な手応えを感じたが、さらにひきずり落とす為に、深く微笑みかける。
「僕、やっぱり、天使課に行きたかったな。そしたら毎日、部長に逢えたのに」
「結城君、その…」
「実は僕、ずっと鈴木部長に見張られてるんです。最初は気にしないようにしてたんですけど、最近ちょっと怖くなってきて…」
「鈴木部長が…?」
「相談に、乗ってもらえませんか?誰にも秘密で」
目の淵にうっすらと涙を浮かべてお願いをすると、山田さんは怒りと嫉妬が入り交じった顔で、強くうなづいた。