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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (19)

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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (19)会津磐梯山は、女?



 「小春姉さんは、なぜ、こちらの東山温泉に籍をおいているのですか?」


 暖かい膝の上が気に入り、ウトウトと寝込んでいるミイシャの背中を優しく
撫でつけながら、清子が、春奴に問いかけています。
『よくぞ聞いて下さりました』とばかりに、たまをしっかりと抱きしめている
豆奴が2人の横から、会話にすかさず割り込んできます。


 「小春ちゃんは、春奴母さんが湯西川に来てから、
 最初に育てた、目に入れても痛くない1番弟子です。
 立って良し(踊って)、奏でて良し(伴奏)の、どちらにも秀でています。
 ゆくゆくは、春奴お母さんの立派な後継者になると、周りのみんなも、
 熱い気持ちで期待をしていたんですが、そんな小雪に、ある日、
 突然、魔が差しました」


 「なんですか。魔がさすって?」


 「こころに魔が差す、なんて使われ方を良くします。
 心の隙間に、突然、思いもよらない悪い考えが起きる時のことをいいます。
 『悪魔が囁やく』とか、『つい誘惑に負けた』などもそのひとつと
 言えるでしょう。
 突然の、運命的な出会いが、小春の人生を狂わせるのよ。
 もっとも、当の本人はそうは思っていないでしょうが、結果としては
 誰が見ても、そうなったのよ」


 「小春姉さんが、人の道を踏み外したというお話なのですか?」


 「そのまるっきしの、正反対です。
 道を踏み外したのは、相方の造り酒屋の若旦那の方です。
 道楽三昧で、ノンベェの造り酒屋の跡取り息子を
 好きになってしまった小春が、
 世話を焼き始めたのが、事のはじまりです。
 元の世界へ押し戻して、もう一度酒蔵の仕事につかせるために
 いろいろと陰で骨をおったというのが、事の次第とそのいきさつさ。
 子細を教えてあげるから、ちょっとこっちへ来てご覧。清子」


 たまを抱いたままの豆奴がガラス戸を開けて、
ベランダへ出ていきます。
後について清子が表に出ると、銀色に輝く水面の上に会津の
象徴でもある磐梯山が、悠々としてそびえているのがいきなり目に入ります。
磐梯山は、猪苗代湖の北にそびえる活火山です。

 
 「会津といえば、猪苗代湖とこの活火山の磐梯山だ。
 有名な民謡の会津磐梯山は、このあたり一帯を歌ったものだと
 いわれています。
 ♪小原庄助さん、なんで身上つぶした?
  朝寝朝酒朝湯が大好きで、それで身上つぶした、
   あ~もっともだぁ、もっともだぁ♪
 という合いの手の入る、全国的にも有名な歌がある。
 知っているかい?。お前」

 
 「(エンヤー)会津磐梯山は宝の(コリャ)山よ。
 笹に黄金が(エーマタ)なりさがる・・・という、歌のことでしょう。
 知っています私も。それくらいのことなら」


 「もともとは、会津地方に伝わってきた盆踊り歌で、
 全国発売をされたものには30番目までの歌詞がついている。
 磐梯山とは女のことで、全国的に知られているこちらの歌詞とは別に、
 地元ではいまでも、別バージョンの盆踊り歌が、
 真夏になると歌われている。


 ・会津磐梯山は宝の山よ 笹に黄金がなりさがる。
 ・何故に磐梯あの様に若い 湖水鏡で化粧する
 ・北は磐梯 南は湖水 中に浮き立つ翁島
 ・主は笛吹く私は踊る 櫓太鼓の上と下

  - おはら庄助さん 何で身上(しんしょう)潰した
    朝寝朝酒朝湯が大好きで それで身上つぶした
    ハアもっともだもっともだ

 ・踊り踊らば姿(しな)良く踊れ 姿(しな)のよい子を嫁にとる
 ・会津磐梯山に振袖着せて奈良の大仏婿にとる
 ・笛や太鼓につい浮かされて いつか踊りの輪に入る
 ・桐と漆器で知られていたが たても自慢の蔵のまち(喜多方のこと)

  - おはら庄助さん 何で身上(しんしょう)潰した
    朝寝朝酒朝湯が大好きで それで身上(しんしょう)潰した
    ハアもっともだ もっともだ

 ・会津磐梯山は宝の山よ 笹に黄金がなりさがる
 ・お湯の熱塩 子宝授く 夏は河原でカジカなく
 ・嫁にきてから手ほどきされて 主(ぬし)と2人で盆おどり
 ・あの娘(こ)粋だよ紅帯しめて 姿(しな)に見とれて夜もふける

  - おはら庄助さんなんで身上(しんしょう)潰した
    朝寝朝酒朝湯が大好きで それで身上(しんしょう)潰した
    ハアもっともだもっともだ

 ・会津磐梯山はふるさと踊り 今年は早めに里帰り
 ・櫓太鼓の音さえ聞けば 今日の疲れもどこへやら
 ・踊り見にきて踊りを覚え くにの土産に持ち帰る
 ・おらが会津の自慢のものは おはら庄助さんの盆踊り

  - おはら庄助さん何で身上(しんしょう)潰した
    朝寝朝酒朝湯が大好きで それで身上(しんしょう)潰した
    ハアもっともだもっともだ

 どうだい。福島の女たちってのは、ちょっと色っぽいだろう。
 だがそれ以上に湯西川温泉出身の小春は、はるかに艶のある生き方をした。
 女の一生をかけて、喜多方市の造り酒屋・小原庄助さんを、
 精一杯に、それこそ親身になって支え続けたのさ」

(20)へ、つづく