小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ヤマザクラ

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「約束をするよ、必ず帰ると。この桜の樹に次の花が咲く頃には、必ず。」
 私たちの隣に立つ満開の桜の樹を見上げ、貴方は言う。私は「待っている」の一言が言えず、俯きながら貴方の袖を掴んだ。心配した貴方は垂れた私の前髪を撫ででくれる。
 貴方は私の言葉を待っていた、なかなか出ない私の言葉を。きっと貴方は私の言葉が“待つ”の言葉でも“待てない”の言葉でもいつもの優しい目で私の言葉を受け入れる。それが分かっているから、言葉と一緒に涙も出ていってしまう気がした。貴方は優しすぎる。
 なかなか出ない私の言葉に痺れを切らしたのは、貴方ではなく、満開の桜だった。桜は私の代わりに、という様に花びらを散らした。花びらは垂れた私の頭に、貴方の手に、舞った。
 桜は待っていてくれるそうだ。君は?と私を撫でていた右手が止まる。桜に背中を押された気がした。私はゆっくりと頭を一度縦に動かした。そして「待っています。」私はこの場所に来てはじめて、貴方の優しい目を見て、伝えた。
これは日が向こうの山に入りはじめた夕暮れの約束。


 かつて『約束の桜』と呼ばれていた樹は、今では『咲かずの桜』と呼ばれている。

作品名:ヤマザクラ 作家名:練白