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正宗イン・ワンダーランド

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 俺はいなくなってしまった暁斗の喪失感が激しかったし、この世界の暁斗は、俺とは親密な関係じゃない。いわば初めての体験だったんだ。

「なにかお菓子でも食べます? 」
 そう言うと暁斗は、台所に行って物色をはじめた。

「暁斗、くん、お母さんは? 」
「えー、母ですか? 仕事です。今日は……日曜日だから、遅いと思います」
 鏡子伯母さんは生きているんだ!
 そうか。
 この世界は鏡子伯母さんが生きている、て世界なんだな。

「こんなもんしかないですけど、何か出前でも取りましょうか? 」
 おかき、や、ちょっとしたクッキーなんかを暁斗はこたつの上に広げた。

「いいよ。あ、暁斗くんがお腹すいていたら取って」
 そう言った瞬間、お腹がぐぅって鳴った。うわあ、かっこ悪い! なんで体は正直に答えるんだよ。確かに朝ごはん抜きで、ずっと食べてなかったけどさ。

「ははっ。やっぱ取りますね」
 嬉しそうに笑うと暁斗は、出前のメニューをひろげた。俺たちは、どんぶりを選び、注文の電話をかけた。なんか楽しい…………

「なんで、オレの名前、知ってるんですか」
 暁斗は、ちょっと嬉しそうにでも好奇心のこもった目で俺を見つめた。

 俺はどういっていいか分からなくて下を向いた。適当に誤魔化すことは出来るだろう。けど、暁斗に嘘をつくことはしたくなかった。いきなり大泣きした訳さえ、まだ話していない。彼は優しく共感能力が高いから、こっちから話さない限り、理由を問うことはしない。それが分かっているから、なおのこと、そんな彼に嘘はつけなかった。


「暁斗くんは俺のイトコなんだ」
「え? 」
「鏡子伯母さんは、俺の父親の妹なんだ」
 驚いた顔をしていた暁斗は、関係性を理解するために目を左に寄せた。

「鏡子伯母さんは、実家である高原家から家出同然で家を出たんだ。それが十七年前、君がお腹にいる頃。君の祖父である鏡子さんの父親は、かなり暴君だった。娘が付き合っていた男のことも気に入らなかったんだ。さんざんケンカをした後、鏡子さんは家を出て男と一緒になった。けど、じっちゃんは『あんなヤツはもう娘でもない』て鏡子さんを勘当してしまった。そのまま二人はいっさい会わないまま月日が流れた。鏡子さんも居場所を知らせることはなかった……じっちゃんは、二年前に亡くなった。でも最後まで鏡子さんのことを許さなかったんだ。ほんと、ヤなじじいだったよ」

「母はお祖父さんが亡くなったことは知らないと思います」
「だろうね」
「今は実家のほうは? 高原さんのお父さんが継いでいるんですか? お祖母さんは? 」
「ばっちゃんは二年前の暮れに亡くなった。今はうちの父親が家を継いでるんだ。うちは神社なんだよ。代々、宮司なんだ」
「そうなんですか」

 暁斗は背筋を曲げ脱力した。だよなあ……急に出生の秘密をこんなに話されてもなあ。

 ピンポーン。
 出前が来た。いいタイミング。
 
 あれやこれやと食べる用意をしてから、俺たちはどんぶりを食べだした。
 こうやっていると今までどおりのふたりみたい。ただ、いる場所が違う、ってだけで。でも、本当は違う。

 食べながら神社の説明と、うちの家族構成なんかを説明した。暁斗も鏡子伯母さんは今、占い師として働いていて、結構、評判がいい、って話をしてくれた。


「けど、どうしてうちが分かったんです? 母さんが高原家に連絡するとは思えないんですけど……」
 食べ終わって、丼鉢も片付けた暁斗は核心に迫る質問をした。

 俺は頬にパチンて手を当てると上下させて、しばらく考えた。

「暁斗くんは好きな人いる? 」
「え、何ですか。いきなり」
「だって、すごくモテるだろ。そんだけ綺麗なんだから。剣道も強いし」

「そういうの面倒なんです。どうして誰かと〝付き合わなきゃ〟いけないんですか。好きな人を〝つくらなきゃいけない〟んですか。ちょっとカッコイイか何かしらないけど女の子が色々言い寄ってきて『付き合って、付き合って』て強要する。

『オレは付き合いたくない』って言っても理解してくれない。『好きな人がいないなら私と付き合って』って言う。フリーでいたい、っていう選択を許してくれないんです。こういう悩みって『モテる悩みだろ』って誰も本気で聞いてくれない。誰かに相談しようにも誰も真剣にきいてくれないんです」

 本気で怒っている。
 暁斗は幼稚な恋愛は嫌いだからな。人の感情が読める彼には、負担にしかならない。

「あ……すみません。こんなこと高原さんに言って」
「いいよ。俺には何でも話してくれて。イトコなんだし。……俺はそんなモテないけど聞くくらいは出来るから」

 暁斗をキラキラ輝く粒子で包みながら見つめた。彼がほわんとなった。俺の愛情エネルギーが届いたみたい。なんか、いい感じだよ。

「うん」
 膝に顔をうずめた暁斗は、明らかに気持ちよさそうだった。
「なんかヘンな感じ。高原さんといると眠くなる。なんでだろう? 」
「暁斗、俺のことは正宗、って呼んで」
「えー そんなの出来ないよお。高原さん年上だし」
「いいんだ………………そう呼んで欲しいんだ」

 また悲しくなって、涙が出てきた。こたつ布団をぎゅって強く握る。

「ねえ……何か訳があるんでしょ? 高原さ……正宗がここにやってきたの? さっき話した親のことだけじゃなくて」

 鼻水を何回もすすって、俺は口を開こうと努力した。

「暁斗は、不思議な世界を信じる? 」
「不思議? 」
「うん。……俺、本当はこの世界の人間じゃないんだ。この世界と並行してある世界から来た。……そこで俺は暁斗と一緒に暮らしていた」

 沈黙が落ちた。
 そりゃあ、そうだ。
 普通、いきなりこんな事言う人間がいたら精神科の受診を勧められるだろう。


「なんで? なんでオレは正宗と暮らしていたの? 」
「……そこは詳しくは言えない。けど……そうなんだ」

 鏡子伯母さんが死んでいる、なんて言えるハズない。そのうえ俺と恋人同士だなんて、もっと言えない。

「それでオレの家が分かったの? 」
「うん」

 また沈黙。

「そっちの世界で、オレ死んでるとか」
「ううん。生きている。元気だよ」
「なんだ」
 安心したように息を吐いた。
 けど、しばらくして質問してきた声は、とてもつらそうだった。

「元の世界に帰りたい? 」

 驚いて暁斗を見つめた。

「そりゃ、そうだよね。オレが正宗の立場だったとしても帰りたい、って思うよ。もし思わないとしたら……そっちの世界でオレが死んでいる場合かな、って思ったんだけど。そうじゃなかった」

 そう言われて俺は、血の気が引いていくのを感じた。
 あっちの世界で暁斗が生きているって保障はない。
 だって、今朝のベッドに暁斗はいなかったから。あれが、こっちの世界のことだったのか、あっちの世界のことだったか、区別がつかないんだ。確実なのは、今、目の前には暁斗がいる、ってことだ。

「もし、正宗がこっちの世界から元の世界に帰ったとしたら……もうオレは正宗に会えないってこと? 」

 そんな……
 そんなこと
 考えたことも無かった

 揺れる
 揺れる
 暁斗の感情が