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若槻 風亜
若槻 風亜
novelistID. 40728
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【サンプル】六芒小隊

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 命を道具のように扱い、使い捨てる箱庭。それが少年たちの〝“世界〟だった。父や母という存在は後に親から引き離され連れて来られた〝同類〟たちの話でしか知らない。

 空とは四角く区切られた天井のこと。草木とは人工的に整備された作り物のこと。動物とは折に閉じ込められ自分の番を待つだけの実験体たちのこと。彼らにとってそれら(、、、)はそれ以外の何ものでもなかった。

 しかし、少年たちはいつしか知った。自らに許されたはずの〝命〟という権利を〝自由〟という意思を。そして彼らは疑問を抱き、夢物語でしかなかったそれらを渇望するようになる。

 そんなある日、「F―18995」とナンバーのつけられた少年は、同じ願いを抱く五人にこう言った。



「みんなで逃げよう。俺たちは、絶対こんな所で死ぬために生まれてきたんじゃない」



 少年の言葉に頷いた五人――二人の少年と三人の少女――は、彼と共にその日の夜逃亡を図った。明りのない静かな人口の芝生を進むと、一歩進むごとに外への希望が抑えきれなかった。あと少し。あと少し。いらなくなった〝失敗作〟が持ち出される小さな扉がある場所まであと少し。

 知らずに浮かんだ笑みをそのままに、僅かな距離すらもどかしく、少年たちの足取りは自然と焦れていく。その時だ。暗闇に紛れた彼らをライトの光が照らし出す。

「誰だ! そこで何をしている?」

 厳しい誰何。迫ってくる足音と気配。網膜を焼くようなライトの光。希望から絶望へと思いが転じ、少年たちの意識は暗闇へと落ちかける。

 だが、突如ライトは地に落ちた。それに先んじて聞こえたのは、肉を打つ音と男の低いうめき声。迫ってきていた職員が倒れた――いや、倒された(、、、、)のだと、少年たちは遅れて理解する。少年たちが呆然としていると、草を踏み、暗闇から一人の男が現れた。地面に落ちたライトのささやかな光でも分かる、大きな傷が走り、無精髭が生えた顎をさすりながら少年たちを眺めている。腰に大きな宝石がはまった大剣を差しているざんばら髪の壮年の男性は、少年たちの目の前まで近付くとおもむろに膝を折った。

「お前ら、逃げ出したいなら俺が連れて行ってやろうか?」

 いとも簡単に告げられた誘いの言葉を受け、「F―18995」の少年は答えに窮する。是非とも飛びつきたい話であるが、この男が何者か分からない。戸惑っていると、「D―33521」とナンバリングされたプレートを下げた最年長の少年が「F―18995 」の少年の前に出て両手を広げた。

「お前誰だ? 何で俺たちを助ける?」

 秘めることのない疑いの眼差し。自分の後ろで残りの少年と少女二人も同じ顔をしていることを「F―18995」の少年は知らない。男性が答えず沈黙が落ちる中、不意に彼は背中を向けた。

「理由なんてねぇよ。ただ俺も今からここをおさらばするところだから声かけただけだ。お前らだけで行きたいなら行けばいい。ただ、そっちはただの焼却炉だからな」

 先の誘いと同じほど軽口で告げられた事実に少年たちは揃って驚愕を浮かべる。信じるべきか、信じないべきか。少年たちは当惑した表情を見合わせた。

 そして、そこにもう一対の視線が足りないことに気付く。姿の見えない最年少の少女の姿を探そうと、焦り視線を巡らせる必要もなかった。その声はすぐ近くからしたのだから。

「おじちゃんまって。『V―22315』もいっしょー」

 幼女とは思えない軽やかな足取りで男性に近付いた「V―22315」の少女は甘えるように男性の片足にしがみつく。それに存外優しい笑みを浮かべると、男性は慣れた様子で少女を抱き上げた。

「おう。お前は一緒に行くか。お前らは? 俺が止まるのはこれで最後だぞ」

 「V―22315」の少女を抱き上げたまま、男性がもう一度振り向く。恐らく脅しではないであろう言葉を聞き、「F―18995」の少年は皆の目を強く見つめた。

「行こう。俺たちは自由になるんだ。よく分からないし、やっぱり少し怖いけど、今はあの人を信じてみよう」

 本音を、正負隔てず「F―18995」の少年が口にすれば、後押しされたのか残りの少年少女は皆真剣な面持ちを見返し合い、同じように頷く。そして、立ち止まったままの男性の元へと駆けた。

「おじさん、お願いします。俺たちを連れて行ってください」

 まっすぐに男性を見上げ「F―18995」の少年が頼み込むと、後ろの四人もそれに倣い、男性の腕の中の「V―22315」の少女も「ください」と無邪気に笑う。男性はまたふっと相好を崩すと少年たちの頭を撫でた。

「おじさんなんて呼ぶなよ。そうだな、先生とでも呼びな」

 予想外の返しに、子供たちはぐっと唇を引き伸ばし顔を男性を見上げる。生まれて初めての優しい手に、区切られた空でしか知らないがそれでも十分すぎる輝きを教えてくれた太陽のような笑顔に、自然とその顔は赤らみ目には涙が浮かんだ。

 それにもう一度笑いかけてから、男性は短く「行くぞ」と声をかけて踵を返す。少年たちはそれに続いた。彼らが施設から出たのは、それから十数分後のことである。