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コメディ・ラブ

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ホテルのバーから出て家族連れや若い女性のグループであふれているロビーを歩く。

「晃じゃない?」人々のざわめきが心地よく耳に聞こえる。

時計を見るともう既に夕方だった。

「もうこんな時間、駅まで送るよ」

美香が何か言おうとしたが諦めたように頷いた。

「……うん」

「ほら早く行くぞ」

そう言い俺は美香の手を握り歩きだした

「でも今日土曜日だし……」

美香の小さな呟きが隣で聞こえた。

俺は本当はわかっていた。

やけに今日かばんが大きいのも、珍しく切符を片道しか買ってないのも。

俺は何て答えていいのかわからず必死に心の中で言葉を探した。

「キャー!!」

女子高生の大群に見つかり、囲まれた。

神様は俺にまだ誠実な男になるチャンスを与えてくれた。

「オォ、マイジーザス」

そうつぶやき隣を見るとあいつはいなかった。



思いのほか激しい夕方のラッシュに焦りながら、ハンドルを持つ手が汗ばんだ。

美香が隣で不機嫌そうに外の景色を見ている。

「さっきさ、隠れなくてもいいからもっと堂々としてろよ」

「だって困るじゃん」

美香が外を向いたまま答えた。

「そんなこと気にしてたのかよ、別に俺はいいんだよ。付き合ってるのは本当だから」

美香は見る対象を外から俺に変えた。

「……違うよ、私が困るから」

美香はまた外を見た。

「……私が?」

俺はもう一度聞き直す。

「……そう」

それだけ言うと俺達はお互いに黙り込んだ。

遠くに走っていく救急車の音が聞こえた。

「……そうだよな。写真週刊誌に撮られたらお前の仕事やってけないもんな」
   
半分やけくそになり言うと、俺の携帯が鳴った。

「誰だよ」

そう呟いて携帯を見ると懇意にしてもらっているプロデューサーだった。

急いで近くの近パーキングに止めた。

「けんさん。もしもし今日はオフなんですが、前々から言ってましたが今はちょっと立て込んでまして、

優海ちゃんは今着いたんですか?いやちょっと今は……すいません失礼します」

電話を切るや否や美香が心配そうに呟く。

「いいの?大丈夫?」

「いいよ。気にすんな」

せっかうまた電話がかかってくる

「けんさん、どうしたんですか?優海ちゃんがどうしても俺に会いたいって、いや嬉しいな、優海ちゃんに会いたいのは山々なんです。がちょっと今」

美香が肩を叩いて携帯の画面を差し出してきた。

その画面には「行ってきな。付き合いは大事」と書かれていた。
   
思わず抱きしめたくなった。

俺は美香のこういう意地っ張りな所が好きだった。

「はい、はい」

俺が電話に気をとられている隙に美香は車から勝手に降りて外を歩きだした。

俺はあわてて携帯を服にくっつけた。

「おい、待てよ」

けれどもあいつは俺のことなんてお構いなしにどんどん歩いていく。

「もしもし、すいません。はい、はい」

あっと言う間に美香は前にとまっていたタクシーに乗ってどこかに行ってしまった。

俺は何だか無性に腹が立った。

「はい、はい……そこまでけんさんが言うなら今から行きますね。優海ちゃんに会うの楽しみだな」

そういい電話を切ると、運転席の背もたれに思いっきりよりかかり目を閉じた。、


夕方の東京駅は家族連れでごった返していた。

流れていく人の波に反してどれだけ歩幅を小さく歩いても、一向に晃は追いかけてくる気配がなかった。

特急の待合室に腰かけ、持っていたお茶を飲む。

ふと上を見ると、大型ビジョンでCMが流れている。

「安心、安全、オリーブオイル」私はすぐに立ち、待合室を出た。

今はあいつの顔なんて見たくない。

機械的なアナウンスが予定より一本早い特急電車が到着したことを知らせてくれた。

鞄を右手に抱え、左手でエスカレーターのカバーを掴みながらゆっくりエスカレーターに乗った。

いつもよりも重い鞄がやけに悲しい。


作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko