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MILKY WAY

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 バルコニーに6月の夜風が薫る。風に靡いた私の髪が貴男の鼻を悪戯したらしい。
「くすぐったいよ……」
 貴男の笑うような声が風に流される。
 丘の上の一軒家。それが私の家。貴男はいつも長い距離を車を飛ばして、この積み木の小箱まで来てくれる。私のために・・・・・・。
 遠くに街灯りが見える。疎らな夜光虫は決して都会でないことを意味している。それは、見上げる銀の砂粒に気圧されそうな儚さだ。
「すごい星だな……」
 宙との距離が異様なほど近く、眩いばかりの星たちが、ひしめき合い、煩いくらいにお喋りしている。俗に吸い込まれそうな星空というのは、このような光景をいうのだろう。
 白鳥が大空を舞い、竪琴が優雅な調べを奏でる。
 私は宙が降りてきて、取り込まれてしまいそうな感覚に襲われる。私は星を見るのが好きだったが、それは脅威と畏怖の念に近い。
 小さいころから、どこか抱いていた恐れの感情。まるで紺碧の海原が、美しさと底知れぬ恐ろしさを合わせ持つような感覚に近いかもしれない。
「そろそろ、中に入りましょう……」
「そうだね、夜風で風邪をひいてはいけない……」
 貴男の腕が私の肩を抱いた。歩幅の合う足と足。

 行く先は決まっている。部屋の中の、更に真綿に包まれた小さな小部屋の中。その中でお互いの気持ちを確かめる。
 私がカーテンを閉めようとする。
「ちょっと待って……」
 私は貴男の声に驚いたように振り返る。
「せっかく美しいプラネタリウムがあるんだ。閉めたら勿体ないよ・・・・・・」
「でも……」
 躊躇する私の肩を貴男のしなやかな指が叩く。咥えたくなるその指先を見つめると逆らえない私。
「いいわ……」
 私たちが気持ちを確かめるには、生まれたままの姿にならなければならない。普段は私を綺麗に着飾ってくれるドレスも、貴男をクールに包むスーツも邪魔になるだけ。
 そして「愛してる」という言葉を、お互いの身体で表現する。表現とは独創的なもの。お互いに思いつくままの想いをぶつける。

 絹擦れの音がする。真綿の小さな世界の中で、愛の想いを表現する貴男と私。
「嗚呼……」
 少し首を浮かせた時に、私の瞳になだれ込んできたのは銀の星屑。そして白く光る長い河が、天空を優雅に流れている。
 星たちに覗かれているのか、見守られているのかわからない。ただ、大河は雄大な時の流れを支配する。
作品名:MILKY WAY 作家名:栗原 峰幸