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関西夫夫  おいしい料理

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大晦日に、ボロボロで家に辿り着いたら、俺の旦那が例年通りに、温い年越し蕎麦を用意して待っていた。うちの蕎麦は、キザミ蕎麦で、俺が好きなものだ。そして、超猫舌の俺は温いのやないと食えへんから、適当に冷ましてある。

「せやけど、おまえ、これとちゃうよな? 」

「ああ? 何がや? 」

 ちょっと湯気の上がった蕎麦をすすりつつ、俺が口を開く。刻んだ薄揚げの入ったヤツが俺は好きやと言うたけど、確か、旦那は違ごたはずや。これやなくて、魚の干物が入ったヤツがええとかなんとか言うてたはずや。

「せやから、これやのおて、魚の干物入ったヤツが好きやろ? いつも、蕎麦屋行ったら食うてるやん。」

「水都さん、それ、ニシンのことやろか? 魚の干物って・・・・おまえ・・・それは、あんまりな表現やぞ。あれ、甘露煮みたいなもんやのに。」

「いや、せやから、それ。たまには、それの蕎麦にしたらええやん。なんで、毎年、キザミやねん? 」

「そら、疲れて草臥れた俺の嫁に食わすんやったら、好物やろ? おまえ、ニシン蕎麦にしたら、絶対に半分も食わへんからな。」

「・・あ・・・うん・・・」

「そんな細かいこと、気にせぇんでもええ。とりあえず、風呂入って寝ぇ。」

 確実に、そうなので反論しづらいことをぬかして、俺の亭主は笑っている。まあ、そうやけど、年末ギリギリまで仕事して大掃除も正月の段取りも、全部、お任せの俺としては、それはそれで申し訳ないと思う。

「ほんなら、たまには、俺がおまえの好物こさえたるわ。何がええ? 」

「ん? 好物け? 」

「おう、どうせスーパーは元旦から開いたぁるから、材料はどうにでもなるし。明日やったら、俺、なんか作れるで? 」

 たまには、正月くらい、俺の旦那の好物なんぞ作って食わせてやろうと思ったら、俺の旦那は難しい顔をした。

「いや、好物なあ・・・・そら、嬉しいんやけど。いろいろと面倒でなあ。」

「そんなややこしいもんなんか? 」

「ややこしいっちゅーか、こう、ふんぎりっちゅーかなあ。」

「高いヤツなんか? まあ、ええやないか。正月のことや。それぐらい、なんとかするで? 」

「割と体力勝負やし・・・」

「俺だけで、あかんねやったら、おまえが手伝ってくれたら、ええやんけ。」

「うーん、概ね、作り方は協力したら、なんとかなると思うねんけど。・・・・・コストかかるで? 」

「ええて。たまのことやないか。」

 なんやろう、この渋り様は・・・、と、俺も不思議に思ったが、まあ、ここは押したらええやろうと押したら、「わかった。」 と、俺の旦那も頷いた。

「ほな、明日にでも買出して、作ってもらおうやないか。」

「おう、で、何作るねん? 」

「それは、明日まで内緒。今から、じっくり考えるねん。・・・・・・・どうしょうかなあ。あはははははは。」

 俺の旦那は楽しそうに、ニヤニヤと笑っている。まあ、いろいろと料理を考えているのだろうから、俺も蕎麦に集中する。この調子やと、キャビアのたっぷりかかったオムレツとか、カラスミのサラダとか、そういう高級食材満載のもんやろうと予想した。コストがかかるってことは、普段は作られへんもんやろう。まあ、たまには、ええと俺も思う。毎日、なんやかんやと俺の世話をしてくれる俺の旦那に、好物食わせるぐらいは大したことやない。温いお茶を飲んで、ほっとすると、風呂に叩き込まれて、その日は、そのまま沈没した。除夜の鐘とか行く年来る年とかテレビを見る暇もない年末が、毎年のことで、俺の旦那も風呂から上がって、となりに転がった。

「除夜の鐘って、ここから聞こえるん? 」

「おう、どっかのが、二個くらい聞こえてるで。さすがに、もう終わってるけどなあ。」

「今年もおおきに。いや、もう、年明けてるか。・・・・・・今年もよろしく。」

「こっちこそ、おおきに。まあ、今日は、ゆっくり寝よ。明日は付き合ってもらうさかい。」

 電気毛布で温められた布団で、ほかほかの体温に抱きつくと、ふわりと眠気に襲われる。ほんま、俺の仕事は、ギリギリまで忙しいから、のんびり年越しなんかできた試しもあらへん。それでも、俺の旦那は、何も言わんと、年末の雑用は片付けてくれるし、俺が帰ったら、何時あろうと待っててくれる。それがあるから、生きてられるんやろうと思うので、感謝だけはしている。口では言わへんけど。ぎゅっと抱きついたら、背中に手が回されて足を絡められた。絶対に、今からなんか無理やと思ったら、ぽんぽんと背中を叩かれた。

「・・・・寝かしつけてんのん?・・・・やらへんの?・・・・・」

「うん、今日はええねん。」

「・・・・明日はええで?・・・・」

「当たり前や。姫初めは、じっくりやらせてもらう。」

「・・・おう・・・・付き合う・・・・・あ、せやけど、買出しせなあかんからな・・・・」

「わかってる、わかってる。はよ、寝ぇ。」

 俺の旦那が、クスクスと笑って身体を震わせる。それが心地良くて、そのまんま、俺も沈没した。







 翌日、目を覚ましたら亭主がいなかった。まあ、これは、いつものことやから起き出したら、家の中にもおらへんことが判明した。



・・・・・あれ?・・・・



 なんか忘れて、コンビニでも行ったんやろうか、と、そのまんまコタツに転がっていたら、すぐに亭主が帰ってきた。手にはコンビニの袋がある。

「なんか忘れモンか? 」

「おう、ちよっとな。とりあえず、雑煮ぐらいは祝おうやないけ? 」

「せやなあ・・・・俺、餅抜きにしてや? 」

「わかってる。砂糖醤油でええやろ? 」

 俺は、煮た餅が苦手で食えないので、餅は別に用意してもらう、それも、餅自体が、あんまり好きやないから、それすらも消しゴムくらいの大きさに小さくした餅を砂糖醤油で一個食べるくらいが関の山や。だから、うちの雑煮には餅は亭主のしか入ってない。ついでに、砂糖醤油の餅は、小さくして、海苔を巻いたのが、二個ぐらい用意される。

 昔、生家で実母に食わされたのが、あまりに不味くて、それ以来、煮た餅は苦手になった。だから、雑煮も関西風ではなくて、関東風の澄ましにしてくれている。俺の旦那のとこは、各地を転勤していたから、いろんな味を楽しんでいたんで、どれでもええらしい。今年は焼いた鯛の切り身と青菜が入った澄まし汁やった。

「これ、ええな。」

「さよか。たぶん、関東の海沿いのヤツやと思う。どこかは忘れたけどな。」

 もちろん、熱くはない、温い雑煮や。俺がごくごく飲んでもヤケドせぇーへんぐらいに冷ましてある。

「はい、水都さん、これも一個は食ってや? 腹持ちええさかい。」

 小さくした焼いた餅を手に持たされて、これだけは食う。なんとか、これと砂糖ついたヤツは食えるようになった。これも亭主の努力によるもんや。餅とは縁のない生活してたから、亭主と暮らすようになってから、こういう食べ方も思い出した。祖母が用意してたのは、こういうオヤツやった。もぐもぐと、それを食べて、タバコを一服する。

「ほな買い物行こか? 」

「もう買おうてきた。後は作るだけや。」
作品名:関西夫夫  おいしい料理 作家名:篠義