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SPLICE 翼人の村の翼の無い青年-序-

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ブレースが苦笑しつつ言う。
「お前の仕事?」
そういえば、具体的に何をやっているのか知らなかった。
ただ忙しく動き回っているようなのだけが聞こえてきただけなのだ。
「うん。『外』を飛び回って外交もするし、この世界(大陸)でちょっとした探し物をしたり、調べ物をしたりもする。まさに色々だね」
「『外』って…」
色々な思いが交差する。
そこまでアクティブにはなれないかもしれないと気持ちが訴えるのだ。
「『混沌たる大陸』も行くし『神々の島』諸島へも行く。ほかにも行くし、もちろん…『八百万の神々の大陸』へもね」
最後の名前だけは、まだ気持ちがざわつく。
ブレースも当然分かってはいるが、ブレースだってスプライスと同じ状態であることには変わりない。
ただ、個々人の性格が違うだけ。
本来この大地から出るはずのない『神官』という種族でありながら、外へ出ることがあり、”世界”を旅した。
『八百万の神々の大陸』と呼ばれる世界は二人にとって縁深い場所だった。
「さすがに『外』へ行けだなんて初めからは言わないよ。まず手始めに…」
スクーナに告げられた仕事内容に、スプライスはただ頷く。


「信じるならば、その時間を無為に過ごすよりは有意義にすごさなくちゃ」

ブレースが言う。

『八百万の神々の大陸』へ堂々と足を踏み入れることが出来るように。
ボンヤリしていた時間に終わりを告げて次へ踏み出してみようかと思った。



***



この世界は大地の数だけ『世界』が存在する。
それはこの”世界”の成り立ちに関するのだが、まぁそういうことだった。


アジャレイ神とシュッダー神がニ柱の主神となり治めている大陸を『天空と大海の大陸』という。
それぞれアジャレイ神が天空の神であり、シュッダー神が大海の神であることから…その大陸の創世神話からこの名がつく。
その創世神話を信じないものもこの大地にはほとんどない。
証拠につながるであろう事柄が充満しているからだ。

そんなシュッダー神の神官ト・スプライスはといえば『監察』と称して各地の神殿を見て回っていたりした。
神殿には上位五位神殿とその他小神殿がある。
主神殿を中心に一定距離四方に二位四神殿。
更に一定距離外円に三位四神殿。
更に更に一定距離外円状に四位八神殿。ソレを囲むように五位十六神殿。
計33神殿が上位神殿と呼ばれる。
実はこれ以外に上位神殿に含まれる神殿が2ヶ所あるのだがあまり知られていない。


神官には伝統的な神官服というものが存在する。
スプライスはコレが嫌いだった。
窮屈だし、何となくしっくりこないのだ。
シュッダーの(生来)神官は確かに両性具有だが、胸元の大きく開いた上着は『儀式』によって性別を定めていないスプライスには微妙だ。
柔らかい素材のパンツは履き心地はよいのだがスプライスの普段の私服を考えると長くて少々気持ちが悪い。。
膝ほどまである編み上げのサンダルは縛られているような気分になる。。
首元から、腕から、腰から、ひらひらと舞っている生地は量が多すぎて邪魔だ。
各神殿へ正式へ入殿する際はさすがに着用するべきかとは思うのだが、着用が嫌で正式な入殿を行わない時さえあった。
「自分も適当な性格になったなぁ」とスプライス自身呆れてしまうほど。

スクーナとしてはそれでも主神殿内で無為に過ごされるよりは良いと思ったのだ。
しかし、さすがにスプライス自身も呆れる状況に以前とあまり変わらないのではないかと感じてしまったところで仕方ないと思って欲しい。

そんなスクーナの気持ちを分かって苦笑する人物が居た。
そのスクーナの心配を笑った人物からスクーナの元へ連絡が入る。
「もう任せちゃおうかな」
とのスクーナの呟きを聞いたのはその傍仕えであり護衛であり守護者であり、何よりもパートナーであるエ・ラティーンだった。
このラティーンのような存在も『神官』にとっては普通なのだが、他の大陸(世界)の人には説明を要する。
実はスプライスにも存在するが、スプライスの場合はスクーナとラティーンほど近しい存在ではないために他の付き合い方をしている。
…余談は置いておき。

”お茶しませんか”

その便りだけで、スクーナは自分の心情が相手に十分伝わっていることを感じた。
長い付き合いだけある。
会っていなくてもお互いが手に取るようだ。


相手が指定してきたのは『例の場所』と仮に呼んでいる場所だった。
例の場所、とは相手と自分が初めて『一つ』になった地でもある。
コレは言葉そのままで、それゆえにスクーナも相手も現在『此処』にいる。
相手の名前はタ・ルワール。
スクーナとスプライスと同じ関係をブレースとの間に持つ人物だ。



***



この大地には今にして思えば滑稽な、しかし当時としては恐ろしいことが起こっていた。
そんな過去がある。
まだ完全に清算されたわけではないが、昔よりは落ち着いているだろう。

シュッダ−神とアジャレイ神は夫婦の神だった。
当時はソレさえもほとんど知られていなかった。
この二柱の神があまりにも人間臭いまでに夫婦喧嘩をし、絶縁状態に陥っていたのだ。
その時間は数百年以上という。
神の世界の喧嘩は人間の世界にまで影響を及ぼして、シュッダー教とアジャレイ教の間には埋めがたいほどの溝…お互いの存在さえ消してしまうほどの障壁ができあがっていた。
その時からなのかそれ以前からなのか、二つの宗教は大陸の中でも西方をシュッダー教、東方とアジャレイ教と住み分けていたおり、お互い境目の地より先は何もない、もしくは悪魔の住む地として教えていた。
境界が有るといっても物理的な壁があるわけでもない。
そこでは小さな戦が生じ、場合によっては暗殺者を仕向けあっていた。


諸事情あり歴史の開示と夫婦神の喧嘩の仲裁を行ったのが、シュッダー教神官ト・スプライスとアジャレイ教神官タ・ルワールだった。
お互い好奇心が旺盛すぎたのもあったのだが、本当に偶々だった。
『秘匿された歴史を守る一族』の者に出会い、その者が歴史の事実を確かめようとしていた旅に付き合った結果だ。
秘匿された歴史…『天空の神』と『大海の神』の間には『大地の神』なる子供がおり、その大地の神を祭っている一族とのことだった。
そしてその件によって神の力に直接触れるに至った二人はそれぞれの神の元、『神』と『神官』の間の存在として存在していた。



***



スクーナは普段から神官服の簡易デザインのものを身につけていた。
これはスクーナが特殊な神官であるからというわけでもなく、スプライスと違い幼い頃よりこの服が平服だったから気分的にも楽なのだ。
ルワールもそうらしい。
否。
ルワールはスクーナよりも上を行く。


『例の場所』は山奥に有る遺跡だった。

山奥だろうと街中だろうとスクーナもルワールも移動は一瞬。
スプライスが『異次元』と表現した神殿の空間は、紛れも無く異次元、異空間でありこの大陸内ならば(多少の例外はあっても)どこへ出も一瞬で移動できる。
ついでに言うならこの二人については『神官』ではなく『使神官』といわれている。
その意味は神から『直接使わされた』神官という。