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フェル・アルム刻記

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七.

 フェル・アルムを包む封印。それがほころびつつある今、それぞれの思惑で前進しようとする者達がいる。

 ルード。
 ライカ。
 ハーン。
 〈帳〉。
 デルネア。

 そして、ほころびをくぐり抜け、二人の子供がこの世界に降り立った。

 ディエルとジル。

 片や異形のものを苦もなく倒し、片や空間を渡る。人ならざる力を持った、しかし無邪気な子供達。なかば気まぐれでやってきた二人が、運命の五人にもたらすものは何なのだろうか?

「どう? 兄ちゃん?」
 アヴィザノの宿の一室にて。ジルが訊いている相手は、彼とそっくりの姿をした少年だった。あえて違いを挙げるとすれば、ジルのほうが髪の色素が薄いという点くらいだろうか。
「……ここは見た感じ平和そうな世界だが……どっかに違和感がある。……見つけたぞ、“力”だ! 一つはこの都市のどこかにでっかい“力”を持つやつがいるな。それから……ずっと北のほうに……これ、剣か? ……すごい“力”を持ってんな……」
 ジルの双子の兄、ディエルは目をつぶったまま何かを感じとっている。彼が“力”と呼ぶ何かを。
「この世界……今までは封印が強力で行けなかったけど、封印が弱まった今、入ってきて正解だったかもしれないな。なかなかに面白そうじゃないか。おい、ジル!」
 ディエルは目を開けるとジルに命じた。
「オレは剣が気になるんだ。多分よ、オレ達が今まで見たことがないくらい、とんでもない“力”を持ってるぜ、こいつ。……だから、オレを北の……」 と言って、フェル・アルムの地図上、遙けき野あたりを指さす。その場所は的確に、ルードが所有するガザ・ルイアートのありかを示していた。
「……このあたりに飛ばしてくれ。ジルも一緒に来るか?」
 ジルはかぶりを振る。
「この街にもでかい“力”があるって言っただろ? だったらおいらはここで探りを入れてみるよ」
「とか言ってよ、お前の言ってた姉ちゃんに会いたいだけなんじゃないの?」
「うん」
 無邪気に即答するジルに、ため息をつくディエル。
「お前って、きれいなお姉ちゃん見るとすぐそれだもんなぁ……そりゃあ、オレも会ってみたいけどな……」
「ダメだよ。サイファ姉ちゃんに可愛がられるのはおいらひとりで十分だもん。兄ちゃんはとっとと……」
 ジルがこめかみに指をあて、何かつぶやくのを聞き、ディエルは慌てた。
「……! ちょっとまて! 今度は間違わずにちゃんと飛ばせよ! またへんなとこ……」
 ディエルの言葉が終わらないうちに、ジルの力が発動した。ディエルの身体が球に包まれたかと思うと、次の瞬間消え失せていた。
「いってらっしゃーい!」
 ディエルがさっきまで座っていたベッドに向かって、ジルはにこやかに手を振った。

 そして――。
 この日を境に、フェル・アルムの夜空を覆うはずの星達が一切見られなくなった。
 空虚な暗黒はついに、夜空を支配してしまったのだ。





作品名:フェル・アルム刻記 作家名:大気杜弥