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陽だまりの午後

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 昨日までの寒さが和らぎ、私はセーターを薄手のものに変えた。還暦を過ぎてピンクなんて、派手かしら。
 少し汚れたガラス越しに差し込む陽の光が柔らかい。気持ちのよい、小春日和の午後だ。
 私は昆布茶を淹れると縁側に腰を降ろした。見れば細かく傷ついた床は、年老いた私の年輪に似ている。
 こんな日の午後は古い思い出に耽るのがよい。私は漆の剥げかけた箪笥の中から、一枚の白黒の写真を取り出した。
 周囲は細かく破れ、セピアに色あせた写真。私が二十歳の時に着物を着て撮影したものだ。
 私の思い出の中で、女として一番輝いている写真はこれくらいのものだ。そして一番お気に入りの写真でもある。

 白黒で色あせた写真とはいえ、肌の色艶は若さを物語っている。そして結い上げた、濡れたような黒髪。きりっとした眉に筋の通った鼻。自分でもうっとりするくらい美しく撮れている。そう。若い頃の私は美しかった。まだ穢れを知る前の私は。

 その美貌を鼻にかけ、社交界に身を投じた私は、様々な男を渡り歩いてきた。
 男は贅沢な宝石で私を飾り、それを披露することを楽しんだ。まるで着せ替え人形で遊ぶように。
 私は己の美貌と男から贈り物を翻し、閉ざされた世界の中で喝采の美酒に酔っていた。
 私は供物の見返りとして、男に至極の時間を提供してきた。しかしそこに「愛」があったわけではなかった。
 私にとっても男にとっても、お互いが目的ではないのはわかりきったことだった。それでもその瞬間の享楽に溺れ続ける私にとっては、刹那的な交際で十分だったのである。
 今や年老いたこの身体を、一体何人の男が通り過ぎていったであろうか。私の頭の中に数人の顔が浮かぶ。あとの男は忘れてしまった。これも歳のせいだろうか。

 破廉恥な思い出が走馬灯のように頭の中を過る。年老いたとはいえ、私も女だ。女として生きた証しを噛み締めながら、男たちとの思い出に耽るのも悪くはあるまい。
 時に優しく包まれるように抱かれたこともある。時には荒々しく、乱暴にされたこともある。それはそれで私も満足していた。そうだ、男が私にすがってきた時もあった。
 私は男に快楽を提供しつつ、己の欲望を満たしてきた。そんな自分の生き方に悔いはない。私の若さと美貌ゆえに得た特権だったのだから。
作品名:陽だまりの午後 作家名:栗原 峰幸