小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

INDEX|31ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

「マリークレージュで悪魔召喚が行われたそうです」
 今朝、仕入れたばかりの情報を伝えに来た同僚は、衝撃的と言っていいニュースを淡々とした口調で告げた。
「悪魔召喚か。つくづく不幸な街だな、マリークレージュは」
 聞く方にも、それ程驚いた様子はない。そんな彼の様子を見つつ、同僚は報告を続けた。
「それともう一つ。マリークレージュに魔女がいるそうです」
「・・・・へえ。なるほどな」
 彼はそう呟くと、今度は同僚に向けて問いかけた。
「知ってるか? マリークレージュが滅びた理由」
「地震だと聞きましたが」
「お前はそれを信じてんのか?」
「興味がなかったもので、疑う理由も信じる理由もありません」
「なるほど、そりゃ道理だな。じゃあいい機会だから教えてやるよ。二十年前、マリークレージュが滅びた理由はな、あの街が悪魔召喚の生贄になったからなんだよ。それも、噂じゃマリークレージュを滅ぼしたのは赤い髪の魔女らしいぜ」
「・・・・・では、今回と二十年前、その二つに関係があるとお考えですか?」
「んなことは知らねぇよ。二十年前だろうが今だろうが、魔女を捕まえることに変わりはないだろ」
 しばし沈黙。
「ここ数十年、魔女が目立った動きをすることはありませんでした。それ故に、我々がこういった事態に対処する準備ができていなかった。気を抜いていたといわざるを得ません。実際、たった一人の魔女相手にラオディキアの騎士と悪魔祓い師の半分以上が重軽傷を負いました。幸い死者は出ませんでしたが。・・・ファーザー・セラフを除いて」
「あのオッサンも情けねぇな。仮にもラオディキア最強の悪魔祓い師だろ。それが魔女一人にやられるなんて」
「魔女にやられて小一時間気絶していた方の台詞とは思えませんが」
「おれは死んでねぇから悪魔祓い師長殿より上だ」
「・・・・・・・」
「ま、そんなことはどうでもいい。今問題なのは、どうやってあの魔女を捕まえるかってことだな」
「どのように、ですか。ブラザー・ウィルツ。魔女とはどのようなものですか」
「あれか? あれはな――」



 悪魔召喚から五日後。
 リゼ達はまだマリークレージュにいた。
 何も好き好んでこの街に滞在しているわけではない。悪魔召喚の後始末をしていたのである。
 そもそもメリッサが悪魔召喚なぞを行えたのは、あの魔法陣が完全に破壊されずまるごと残されていたからだった。教会は道具類を残らず押収し、魔法陣を消しはしたものの、それはあくまで表面上のこと。完全破壊には程遠く、ちょっといじってやればすぐ復活するレベルである。こんなもの、悪魔祓い師を動員すれば破壊できなかったはずもない。全く手抜かりにも程がある。
 そんなわけで、三人は(というかアルベルトが率先して)悪魔召喚の痕跡の除去に取り組んでいたのである。要するに教会の尻拭いだ。
「ところでリゼ。ご出身はどちらですの?」
 最後の仕上げとして地下室で発見された悪魔召喚道具一式――蝋燭やら火桶やら――を焼却処分していた時、ティリーは唐突にそう質問した。
「・・・何の話?」
「ちょっとした興味ですわ。それに出身地くらいなら答えてくれるかと思いまして」
 やたら期待のこもった目で見つめられる。ここ数日というものの、ティリーが悪魔祓いの術について質問攻めにし、リゼはひたすらそれを無視する(あるいは見かねたアルベルトが仲裁に入る)、ということを繰り返していたため、いい加減彼女もやけくそになっているのかもしれない。この際、答えてくれるならなんでもいいという感じに。
 まあ、ひたすら無視するのも疲れるものである。出身地くらい知られたからといってどうなるわけでもないし。
「ここから北の方」
「生まれも育ちも?」
「・・・・そうね」
 少なくとも六歳の時からずっとアルヴィア北部の小さな村に住んでいた。その村を出たのはつい最近のこと。――二年くらい前か。
「アルヴィア北部というと、気候がかなり厳しいんじゃないか」
 斜め向かいに座っていたアルベルトが会話に加わった。
「それに、人はほとんど住んでいないと聞いたが・・・」
「そうでもないわ。確かに人は多くはないけど、夏になれば雪は融けるし、作物も育ててた。少なくとも私の住んでいたところはね」
 今思えば、住み心地のいい所だった。・・・思ったところで、今さら帰るつもりもないのだが。
「ふうん。北の方・・・・北の方といえば・・・」
「ティリー、そういうあなたはどこから来たのよ」
「あら、わたくし? わたくしは生まれは西の方なんですけど、その後色々ありましたから・・・話すと長くなりますわね」
「・・・・じゃあいい」
 ティリー相手に不用意に話を振るべきではない。はぐらかされるか打ち返されるか長話されるかのどれかである。この短期間で早くもそれを学んだリゼは、燃える炎に視線を戻した。
 その時だった。
「いた! ねえ、あんたたち!」
突如、聞いたことのある声がした。振り返ると、建物の影から、一人の人物が姿を現した。それを見て、ティリーが言った。
「サニアじゃありませんの。無事だったんですのね」
「あ、あんたたちこそ無事だったの!? あの悪魔は!?」
「消えましたわよ」
「消えたって・・・確かにいないけど・・・ああでも、そんなことは今はいいわ。あんたたちを見つけられてよかった」
 サニアはかなり慌てた様子で言った。
「助けて欲しいのよ! グラントが倒れた木の下敷きになってて、あたし一人じゃ助けられなくて・・・・・別に全員じゃなくていいから。多分二人いれば何とかなるし。お願い!」
そうして落ち着かない様子で街の外の方をちらちらと見る。グラントのことが気になるのだろう。
「分かった。俺が行こう」
 立ち上がったのはアルベルトだった。
「ありがとう! じゃ速く行きましょ!」
 言い終わるなり、サニアは足早に歩いていく。アルベルトは、
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
 と言ってその後を追っていった。



 街の外は先日までの豪雨の影響ですっかりぬかるんでいた。これなら地盤が緩んで木が倒れてもおかしくない。下手をすると滑りそうになる道を歩きながら、アルベルトは前方を行くサニアに問いかけた。
「グラントはどのあたりにいるんだ?」
「え? えーと、もうちょっと先のほうに・・・」
 言いながら、サニアは山道をどんどん進んでいく。アルベルトも後を追ってぬかるんだ地面を歩き進んでいき―――
 唐突に立ち止まった。
 ひゅんっと風を切る音がした。右に飛んだアルベルトのすぐ横に、一本の矢が飛んでいく。続いて襲ってきた数本を剣で斬り落とし、あるいは避けて、アルベルトは周囲に目をやった。
「誰だ!?」
 返答の代わりに飛来する幾本もの矢。だが、いずれもアルベルトに届くことはなかった。
「そこか!」
 飛来する矢を避けて、木立の中に飛び込む。そこに立つ弓を構えた人影に向けて、アルベルトは剣を突き出し――しかし、紙一重で避けられた。
「お久しぶりです。ブラザー・アルベルト」
 人影はアルベルトから離れると、何事もなかったかのようにそう言った。
「っと間違えました。あなたは悪魔堕ちしたんでしたね。ブラザーと呼ぶのは適切ではない」