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蒼乃 ミウ
蒼乃 ミウ
novelistID. 43732
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恋をする。

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モノクロカラー




まったく、なんてモノクロな世界だ。


混雑する電車の中で一人、呟く。
昔読んだ本の主人公が言っていたせりふ。
今の私を形作った本の主人公が言っていたせりふ。
でも本当にモノクロなのだ。
本当に大切なものには色なんてついてない。
目に見える色なんて飾りだ。意味のない、飾り。
飾ることで人は満足するのだ。
飾って飾って飾って、そして本当のことを見失う。
モノクロで、カラフルな世界。
…というのが私の持論だ。


まったく、なんて

「モノクロな世界だ」

自分のそれとは違う声が聞こえて、一瞬固まる。
そして声の発せられた方、即ち自分の右隣を見る。
右隣は、細身で身長170cm程度の男性だった。
歳は私と同じくらい―19歳とか、そこら辺だろうか。
くしゅっと無造作に整えられた黒髪。
紺色のダッフルコート。
手には小説。
最近流行りの草食男子、とかいう類に入るのだろう。

右隣―私が勝手に呼ぶことにした―は私を見てにこっと人懐こい笑顔をみせた。
そしてまた手に持っていた本を読み始めた。
右隣の注意が私に向けられなくなったので私も右隣を見つめるのをやめた。
というより、見つめている自分が急に恥ずかしくなったのだ。
それでも気になってしまい右隣の方を見てしまう。
不意に、本のタイトルが見えた。

"モノクロカラー"

「…っ!」

"モノクロカラー"、それこそ今の私を形作った本。
カラフルな世界、今よりもカラフルな未来で生きる少女舞果はカラフルな世界に疑問を持つ。
これはホンモノなのか、実はモノクロではないのか。
ホンモノの色、世界を求めて生きるうちにだんだんと世界がモノクロに、1番大切なものだけに色があるように見えてくる、という話だ。
私がさっき呟いた台詞は彼女の世界が完全にモノクロになった時に彼女が言ったのだ。
モノクロだからこそ見える、大切なもの。
この本はそんなことを私に教えてくれたのだ。
と、同時にカラフルな世界を疑わせるようになった。

兎に角、右隣が読んでいる本は私が大切にしている大好きな本なのだ。
……話しかけたい。

ここまでくるとうずうずしてしまう。
右隣だってこの本がいやではないから見知らぬ私の呟きの続きを口にしたのだろう。
それにこの台詞は殆ど最後の2、3ページで出てくる筈である。
しかし右隣が読んでいるのはまだ半分くらいだ。
解説にはこの台詞は書いていなかったし右隣が再読していることだって考えられるのだ。
再読するということはこの本が好き、ということではないだろうか。
いや、でも再読であると決まっているわけでもないのだ。
でももし好きなら話したい。
でももし嫌いなら、やっぱり失礼だ。
悶々と悩んでいると意外なことに右隣から話しかけてきた。

「"モノクロカラー"ですよね」

「…っ!あ、はい」

声は男性にしては高め、はきはきとして爽やかな雰囲気だ。
まさかいきなり考えていたことを話題に出されるとは思っていなかった私は変に構えてしまう。
もしかして、好きじゃなかったのだろうか。

「俺、この本再読なんですけどやっぱりいいですよね」

その言葉を聞いた途端変に構えていた体の力がすっと抜けた。
好きだった。よかった。
なぜよかったのかは分からないけれど。

「私、大好きなんです。この本」

「俺も。やっぱりいいですよね、とか言っちゃったけどいいとかいうより大好きです」

やられた。
とても言い回しがすごく好きだ。

「私舞果にすごく影響を受けてるんです」

「あ、だからさっき、」

「つい呟いちゃいました」

ふふっと笑いあう。
初対面とは思えないぐらい、和やかな空気。
それから"モノクロブルー"の話で盛り上がった。
舞果のあの台詞がすきだとか、あの場面は一人で泣いただとか
自分のツボをお互いに語り合って共有する。
共感できるツボなんかがあるととても長くなる。
混雑している電車の中なのに、まるで二人だけでいるような。
二人だけの世界、とでもいうのだろうか。
とても心地がいい。
人と話していてこんなに心地がいいのは初めてかもしれない。

昔から周りを伺って行動するような性格だった。
面白くもないのに周りに合わせて笑い、
悲しくもないのに周りに合わせて悲しむ。
だから特に嫌われたり陰口を言われるようなこともなかった。
かといって気心の知れた相手とか親友とかそういうものはできなかった。
話していて楽しい子はいるけど帰るのが惜しいなんてことはなかったし、
ずっと友達でいたいとか、親友になりたいとかそんな願望もなかった。
それで丁度よかった。
変に嫌われて周りに相手にされず暗く見えるより賢いと思ったのだ。

この心地よさは、違和感は
私がちゃんと私のまま右隣と話しているから。
初対面のはずなのに、初対面ではないような懐かしささえ感じられる。
とても楽しい。
電車を、降りたくない。



作品名:恋をする。 作家名:蒼乃 ミウ