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短編集 1

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InvisiblE





 所詮、小さな幸せなんだと思う。けれどその積み重ねだけで、一体人はどれほど幸せになることができるのだろうか。
 大好きな人と一緒にいることができる幸せ。
 大好きなものと一緒にいることができる幸せ。
 大好きな食べ物を食べることができる幸せ。
 大好きなことをできる幸せ。
 自由な時間を得ることができる幸せ。
 美しいものを見ることができる幸せ。
 綺麗な音を聞くことができる幸せ。
 新しい出会いを知ることができる幸せ。
 それこそ、上げたらきりがないだろうと私は思っている。けれど、そんな小さな幸せを幸せと思えずに、ただ悲観的に生きている人はどれほど寂しいと思うだろう。私は、そんな生き方をしたくはないと思っている。したくはないけれどそうなってしまうかもしれないという不安も、またあるが。
 そんなことを考えながら、パソコンに向かってフラッシュゲームをしている私は、存外他の人から見れば寂しいものなのだろうな、と、自身のことながら他人事に思ってしまう。なんて遣る瀬ないのだろう。
 悲しい出来事ばかり詰め合わされたようなニュースや新聞紙、メディア集。何度も見た芸能人の浮気やその後。そして謝罪会見の様子が事細かに説明されたもの。そして陰湿で悪質な事件の数々。ああ、なんて退屈で面白みのないワンパターンな世界なのだろう。そして、同時に、自分がこの場所で生まれてきた幸せを噛みしめたいとも思う。世界では前述に上げた通りの当たり前の幸せを感じることができない人はごまんといる。戦争の真っ直中であったり、未だ根強く残っているカースト制度のせいであったり、宗教的な問題であったり、民族間の争いであったり、家庭事情であったり、自身の問題であったり、他者からの干渉であったり。その理由もまた上げれば様々だ。
 フラッシュゲームを終えて、椅子の背もたれに倒れるように勢いよく凭れ掛かると、ギッという嫌な音が聞こえた。けれど、それを無視する。暗闇でやるパソコンは、随分素っ気ない。光源はそれしかなく、他はその光に照らされているものばかりだった。音は、私が発するもの以外、何もない。私は今2階にいるけれど、下の階からは生活音とおぼしき音も、家族の声も、何一つとして聞こえてこない。それは、私の家の家庭事情からなるものなのだが。
 そんな微妙な事情もある故に、私はいつしかこういうことを考えるようになってしまっていた。こうして考えてしまうことは、幸せなのか、不幸せなのか、私にはわからないけれど。
 パソコンを閉じると、真っ暗な部屋をゆっくりと歩きながら、ベッドへと倒れ込んだ。真っ暗な部屋に浮かぶ光は、何もない。見渡す限り、真っ暗だ。何があるかなど、電気を点ければ全くわからないほど。
 人は、自分の不幸を嘆いてそれに同情して欲しいと願う。けれど、同情しても逆上する人もいる。なんて都合が良く、自分勝手なのだろう。そして、何をして欲しいのだろうか。

 一生の間に一人の人間でも幸福にすることが出来れば自分の幸福なのだ。

 川端康成という人の言葉。私は確かに自分が作った物で笑顔になってくれる人を見るのがとても好きだ。見ていると、それだけで満たされるし、清々しいほどの充足感を覚える。それがとても癖になってしまい、また何かを作ろうという気にもさせる。けれど、どこか悲しかった。自分が何を作っても、どれほど大層なあだ名を付けられたところで、前以上に満足することができなくなっていた。そしてどんどん新しい方向へと向かうおもちゃを求める子供たちが。古い物へと視線を向けない世間が。アンティークなんていう名前じゃなく、その本当の用途を。たった一つの玩具を大切にして、一人の人間のように愛して欲しくて。


「あぁ、もう、だめだなぁ」


 旧態依然とすることの、何が悪い。今すぐにでなくとも、古きを学び新しきを知る。そういう結果が上がればいいだけの話。あぁ、もう、遣る瀬ない。
 本当に、遣る瀬ないよ。
 自分がしていることが、本当に他人の幸せになるのだろうか、と。
 あぁ、もう考えるのをやめよう。

 昨日は昨日。大事なのは明日だ。

 そう、イヴァンも言ったではないか。
 過去を見返すのは、これでお終いにしよう。自分なりに、人を幸せにする方法をまた考えればいい。笑顔になってくれるように、ただそれだけでいいから。
 ゆっくりと目を閉じて、深い、深い眠りへとつくことにした。
 今日はもう、疲れた。








目に見えないほど小さな何かに気が付くような神経を持って、私は探そう。
どんな人でも少しは幸せを感じてくれるような、そんなものを。











――――――――――…InvisiblE END(20120719)
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作品名:短編集 1 作家名:海山遊歩