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泣き虫新芽衛

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ある村に、なかなか背が伸びない新芽衛がおりました。
新芽衛は「オラもノッポになりてぇだ」と毎日泣いておりました。

しかし、その涙によって新芽衛は毎日少しずつ大きくなっていきました。
新芽衛は泣いて喜びました。

そして、その涙によって新芽衛はさらに大きくなりました。
しかし、新芽衛は大きくなりすぎました。

縦や横に伸びた枝や葉が、雨を塞いでしまいました。
そのため村は水分不足になり、畑や田んぼが枯れ、井戸も枯れ、お風呂も入れず、村人達は精神的に限界でした。

村人達は頭に来て、新芽衛に文句を言いに行きました。
文句を言われて、新芽衛は自分が迷惑をかけていることを初めて知りました。

新芽衛は謝りました。
しかし、村人達はまったく怯みませんでした。

「謝ってもらってもよ、オメェがそこにいる限り雨は降らねぇんだ」
「んだんだ」
「本当に悪いと思ってんならよ、誠意ってもん見してくれや」

村人達は一歩も引きません。
限界も限界で、目が血走っています。

すると新芽衛は言いました。
「分かりました。じゃあ僕を切ってください」
村人達は「よし来た!」とでも言わんばかりに、新芽衛をオノやノコギリで切り始めました。

新芽衛は泣いて謝り続けました。
「うう…ごめんなさい…痛っ…本当に…ヒック…ごめん…ヒック…なさい…痛っ…」

そのときの涙で村人達の体は綺麗になり、畑や田んぼや井戸も復活しました。
雨も降るようになり、村は以前の村に戻りました。

めった切りにされた新芽衛は、さらにめった切りにされ、薪や炭や木材にされましたが、涙を多く含んでいて湿気っているので使い物になりませんでした。

そこへ、キノコ業者のキノコヤが名乗り出ました。
キノコヤは新芽衛にキノコ菌を埋め込み、森に置きました。
すると、新芽衛からはたくさんのキノコが生えてきました。

キノコヤはそれらを店で売ったり、村人にあげたりしました。
しかし、キノコの評判はあまりよくありませんでした。
どうやら、しょっぱいらしいのです。

そんなばかなと思いながらも、キノコヤはキノコを食べてみました。
すると本当にしょっぱいのです。

キノコヤは妻のキノ子に相談してみました。
するとキノ子は言いました。

「ひょっとして、涙でしょっぱいんじゃないのかねぇ」
「ああ、新芽衛は泣き虫じゃったからのぅ」
「煮詰めたら、いいダシが取れるんじゃないのかい」

早速キノコヤは、鍋に水とキノコを入れ煮詰めてみました。
しかし、ダシもしょっぱくてだめでした。
「どこまでいっても使いもんになんねぇなぁ、オメェは。もう知らん」
キノコヤは鍋を放っておきました。

数日後、キノコヤは鍋を見てみました。
鍋には白い何かが入っていました。
「こりゃなんだ」

キノコヤは白い何かを箸でつついてみました。
シャリ。
それは塩でした。
煮詰めたダシの水分が飛んで、塩ができていたのです。

キノコヤは塩をなめてみました。
塩味だけではなく、甘味とキノコのいい香りが口の中に広がりました。

「うまい!これは売れるぞ!」
思わずキノコヤは叫びました。

その声を聞いてキノ子がやってきました。
キノ子も塩をなめてみました。
思わずキノ子も叫びました。
「おいしい!これなら売れるわ!」

二人の目は血走っていました。

「でも商品名は何にしましょうねぇ」
キノ子は言いました。

「涙の結晶がいいんじゃないかのぅ。新芽衛は泣き虫じゃからな」
キノコヤはちょっとうまいことを言いました。

やがて『涙の結晶』は人気商品になりました。

キノコヤは『涙の結晶』を手に取り言いました。
「新芽衛や、これでオメェも救われたなぁ。オメェが泣き虫でよかったよ。これからはオメェの涙でオラ達の店さ、ノッポにしてくれな」

今日も『涙の結晶』は売れ続けています。

〈完〉
作品名:泣き虫新芽衛 作家名:藻(も)