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三色もみじ

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真奈実


「ほらお父さん、紅葉も五重塔も見えて京都みたいだよ」真奈実が父を振り返って言う。
「京都に行ったことあるのか」と父が、電車の中よりもいくらか明るい表情になって言うのを聞いて、真奈実は「修学旅行で行ったきりだけどね」と言って大きく息を吸い込んだ。
枯葉の匂いが、何か懐かしい感じに思える。すうーっ静かに息を吐く。ため息では出しきれなかったものも出ていったような気がする。身体も軽くなった感じで、父を促して歩き出す。
「真奈実と二人だけで歩くのは何年ぶりだろうな」
「高尾山かな、もう三十年はたつよねえ」
「小学生だったかな」
「四年生ぐらいだったかなあ、あっという間ねえ、私はもう四十路に入りました」真奈実はあらためて自分の歳を確認する。
「あれ、どうしてお母さんが一緒じゃなかったのかなあ」と父が言って、真奈実はなぜ母が一緒じゃなかったのだろうと考えたが、父がわからないのを私はわからないとばかりに
「夫婦けんかでもしてたんじゃない。お父さんの浮気で」と言った。
「ははは、そうかもしれないな」
 真奈実は父の笑い声を久しぶりに聞いた気がした。それはやはり嬉しいことだった。そして父が「康隆くんはどう」と聞いた。真奈実はその(どう)が健康のことを聞いているのか、浮気のことを言っているのかわからなかったので「浮気できるぐらい元気があればいいんだけどね」と言った。
 真奈実の夫康隆は、糖尿病の合併症で腎臓をこわし、週三回の透析通いだった。会社も退職し、障害年金と真奈実のパートタイムの働きで、アパート暮らしをしている。
 しきりにしゃべりながら、老女のグループが追い越して行った。多分父と同じ年代だろう。真奈実は父の反応を見たが、同年代の女性には興味はないのだろうか。どうせ女を作るなら、妻が亡くなっている今がいいのに、と真奈実は思った。そうすれば気がかりがいくらかでも減るだろう。娘の自分の一番多感な時期に、別れる別れないで大騒ぎをして、そう思い出して今度は父が憎らしく思えてきた。真奈実は父の足を気遣ってゆっくり歩いてきたのだが、父の前に出て普通の速度で歩き出した。
 蛇行している坂道で、父を横から見る。それほど大変には見えなかった。(なんだ、ちゃんと歩けるじゃない)と真奈実は父を通り越して紅葉とその後ろに広がる街の風景を見下ろす。

作品名:三色もみじ 作家名:伊達梁川