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えりまきとかげ
えりまきとかげ
novelistID. 42963
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異世界の入り口

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実はあっし、異世界の入り口を見たことがあるんでございますよ。
それはですね、ただの古ぼけたせいの低い扉だったですよ。あっしでもせいが低いと思ったですからね、旦那なんてもっと低く見えるだね。
えっ? どうしてそれが異世界の入り口だとわかったかですって?
そりゃあ旦那、扉の上に

「異世界へどうぞ」

って書いてあったからに決まってるでねぇですか。あっしには第6感でしたっけ? そんなものはごぜぇませんからね。あっ、もしかしたら旦那ならすぐお気づきになるかもしれませんね。あちらの世界に。

話し終わるとひっひっひっと引き笑いをしたこの腰の曲がったお婆さんは、この男が仕事のために宿泊した旅館のおかみさんだ。
男を怖がらせるためにあんな話をしたのだろうか。そういう類いの物は信じないようでほとんど聞き流していた。

それでは旦那、ごゆっくり。
そう言っておかみさんは部屋を出ていった。

仕事とは、明日この旅館の近くのホールで新企画の大事なプレゼンがある。
あまりお金は使いたくなかったので、他のホテルや旅館よりも安かったこの(オンボロ)旅館にしたのだった。


男は眠りにつく前に、明日のプレゼンの資料の確認をしていた。すると急に便意が催した。
トイレの場所は確認済みだったので、急いで向かった。トイレに着くと先程までの便意が嘘のように無くなっていた。

おかしいなと思ったが、明日は朝が早いので気にせずに戻ることにした。
しかし、来るときは気にも止めなかったが、部屋に続く廊下は明かりもなく真っ暗だった。
自分の足下も見えない程の暗闇なのだ。
男は壁に手をついて、記憶を辿りながら歩いた。ところが、いくら歩いても曲がり角が無い。そんなに広い旅館でもなかったはずだ。
いよいよおかしくなったに違いない。
いや、暗闇だから距離感覚が掴めないだけで、実際はそれほど歩いてはいないのだ。と強引にこじつけて、壁から手を離し片手を前につきだしながら進むことに決めた。

数十歩歩いたところで壁に手が触れた。どうやらやっと曲がり角についたらしい。
来るときはここを右へ曲がったから、ここは左へ曲がり、まっすぐ行けば自分の部屋につくはずである。
しかし、その部屋があるであろう場所もやはり真っ暗だった。
部屋を出るときに明かりを消してきてしまったのだろうか。いや、そんなことはしていない。ではここはどこなのだ。
頭が冷静では無くなってくる。とりあえず進もうと、踏み出したときだった。男の足は床をとらえてはいなかった。バランスを崩した男の体が、ふわっと浮いたと思った瞬間に意識を失った。


目を覚ますと自分の部屋にいた。
あれは夢だったのだろうか。ふと、部屋の外に目をやった。外は明るかった。朝になってしまっていたのだ。まずい、プレゼンに遅れてしまったら……
男は時計を確認した。したのだが、時計は1:32の所で止まっていた。
なんでこんなときに! と思いながら携帯を開いたが、携帯は充電切れ。
くそっ! 男は目を閉じたままのおかみに挨拶をして旅館を飛び出すと、タイミングよくやって来たタクシーに乗り込んだ。

「○○ホールまで行ってください」

「……」

運転手は答えないまま車は走り出した。
タクシーの車内の時計を見ようと思ったが、紙が入ったクリアファイルのせいで見えない。

タクシーはしばらく走ったあと急に止まった。
辺りは薄暗い山道だ。

「おい何してるんだよ!」

男は叫ぶが、運転手は答えない。

「もうここでいい」

千円札を座席に2枚置くと、タクシーを降りて走った。走っている途中にふと横を見た。
そこには

「異世界へようこそ」

と書いた扉が何もない空間にぽつんと立っていた。あの話を思い出して気味がわるくなったが、気にしている余裕はない。

ホールはこっちのはずだなのだが、いくら走っても一向に山道から出られない。
走り疲れた男は少し歩くことにした。
歩いていると、何かの気配を感じた男は横を見た。そして叫んでいた。
またあの扉が立っていたのだ。
男は狂ったように終わらない山道を走り続けた。

扉はもう二度と男の前には現れなかった。
作品名:異世界の入り口 作家名:えりまきとかげ