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カムイ

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 そして、10日目の今日。
 飼料として与えてきた枯れ草に隠して、綱の輪の部分を自分の腕にかけていた。月が手から直接枯れ草を口にくわえ、咀嚼を始めた瞬間に、その輪を鼻梁から一気に首まで持っていき、綱を引いて輪を締めた。
 月は驚いて走り出した。
 綱の他端は、自分の腰にしっかりと巻きつけている。
 綱を持って一緒に走りながら、全体重をかけて思いっきり引っ張った。
 ガクン、となって立ち止まった月に走り寄ると、ブヒヒヒヒィーン、と後ろ脚だけで立ち上がった、次の瞬間には後ろ脚で、蹴られていた。
 
 1丈(約3m)ほど、あおむけになってぶっ飛んだ。カムイの士気は落ち込むどころかますますかきたてられ、元気を持て余しているような月に一層惚れ込み、ニヤリとなる。
 月とは、綱で繋がったままである。綱を持って立ち上がると、ゆっくりと綱を手繰り寄せながら、月に近寄って行った。月は何事もなかったかのような風情で、雪の表面を前脚の蹄でかいでいる。
 たてがみに手をかけようと、そっと手を差し出した途端再び走り始めた。
 手は空をまさぐり、前のめりとなってよろけて倒れそうになり、片手をとっさに綱にかけた。が、勢いで仰向けとなって、そのまま背中を硬い雪にこすって引きずられていく。
 
 月の首には、カムイの体重が掛かっているのだ。不自然にかかってくる重さでまもなく立ち止まった月は、顔だけを後ろに振り向けて、カムイを見ていた。
 静止したカムイは綱を手から放し、両手を頭の上に広げて仰向けのまま、腹を上下させて荒い呼吸を繰り返していた。そしてもう何も考えずにただ、澄み切った青空を見つめていた。
 走っている馬のような形をした、厚みのある白い雲がゆっくりと流れ来て、太陽を隠していく。太陽がすべて隠れると、急に空気が冷たく感じられた。
 白い雲は、天空を駆けている “月” を思わせ、七色の光がぼんやりと縁取っていた。 
作品名:カムイ 作家名:健忘真実