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太陽のはなびら

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【最終章:太陽のはなびら】



シンは森の中を歩いていた。
まだ空は曇ったままだけれど、小振りだった雨も止んでいた。
シンが一つ大きな伸びをすると、肩にとまっていたヒューイが語りかける。

「これで本当に良かったのですか?」

その問いに、シンは少し困ったような、しかし嬉しそうな表情を浮かべる。

「ああ、多分これも一つの道なのかもしれない」

シンは振り返って通ってきた道をみる。
不思議なものだ。
今までの十年もの間、自分を縛りつけていたものが、
偶然立ち寄った家の、一人の少女に出会ったことで、いとも簡単に解きほぐされてしまった。

「まあ、私は一つ将来の不安が解消されて安心しましたよ」

「どういうことだい? ヒューイ」

その答えをヒューイが言う前に、その答えがシンを追いかけて来た。

「お待たせしました」

はち切れそうなバッグを持った、リュヴリュだった。
リュヴリュはシンの名前の本当の意味を言った後、自分はシンについていくといい張った。
シンは当然反対したが、絶対についていくと言ってきかなかった。
自分と一緒にいると不幸になるとシンが言っても、
リュヴリュは幸せか不幸は自分で決めるものだと主張。
人並み以上に苦労するとシンが脅しても、
苦労する事は必ずしも不幸ではないといい張る。
何を言っても聞かなそうなので、
シンは特定の人と一年以上一緒にいると、響覚がコントロールできなくなってしまうから、
一緒に旅はできないと説明した。
しかし、それに対してリュヴリュは笑ってこう言った。

「大丈夫です。私は人ではないですから」

リュヴリュは今まで被っていた大きな耳あて帽子を取った。
シンは自分の目を疑った。
驚いたのは鮮やかな栗色の美しさだけではない。
リュヴリュの側頭部には、まるで犬のような耳がついていたのだ。

「先生は人に見せてはいけないって言われていたんですけどね。シンになら見せても大丈夫でしょう」

笑顔でリュヴリュは言う。ここで、シンはある事に気がついて愕然とした。
リュヴリュとしゃべった後、客間に入った後、シンは普通にヒューイと話をしていた。
ヒューイとは響覚を使わなければ話す事が出来ない。
つまり、シンはリュヴリュと初めて出会ったときから響覚を使い続けていたのだ。
ということは、リュヴリュは思ったことしか口にしていなかったということ。
つまり、響覚があろうと無かろうと、リュヴリュにはまったく関係の無いことで、
一緒にいることの障害にはならないのだ。
そしてシンは、観念してリュヴリュが自分と同行することを認めたというわけだ。

「全く、じっと見つめちゃって。随分といかれてしまっていますね」

ヒューイのからかうような口調に、ふとシンはわれに返り、顔を赤らめる。

「それじゃ。私は少し羽を伸ばしてきますね。お二人はごゆっくりどうぞ」

ヒューイはその大きな翼を広げ、大空に飛び立つのをシンは見つめていると、

「ヒューイさんと何をしゃべっていたんですか?」

リュヴリュが問いかける。当然言えるような内容ではないので、適当にその場はお茶を濁した。

「さて、準備も整ったね」

「はい、それじゃあ行きましょうか」

ふと、二人は空を見上げると。ちょうど曇り空から太陽が覗いていた。
いくつかの雲の切れ間から、太陽の光が地上に向かって差し込んでいる。
そのあまりの神々しさ、美しさに二人は感嘆の声を上げた。
リュヴリュはその太陽を見て、一輪の花が咲いているみたいだと微笑みながら言う。
シンはふと、母親が教えてくれた「光の花」を思い出す。
どんなに落ち込んでいて、悲しくて、寂しくても、それがずっと続くことは無い。
明けない夜が無いように、目を開いていれば、希望は太陽のように顔を出す。
どんなにつらいことがあっても、いつかはそれを笑って話せる日が来る。
シンの長い夜は、彼を苦しめた長い夜は、今ようやく明けたのだ。
雲間から差し込む太陽の光が二人を包み込む。
それは、まるではなびらのようだった。

―おしまい
作品名:太陽のはなびら 作家名:伊織千景