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FLASH BACK

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「ありがとう……でも俺、もう少し頑張ってみるよ」
 なぜだか俺にもわからないけど、俺の心はさっきとは真逆に前向きになっていて、苦しげな顔をしてまで正義感を貫こうとする小澤さんに、これ以上迷惑はかけられないということと、伯父さんや伯母さんに俺の現状を知ってもらったことで満足したこと、そしてなにより、沙織という新しい親戚を目の当たりにして、たぶん希望というか……言葉にするとそんなものが、その時の俺に生まれたんだと思う。なにしろ心は興奮に似た明るさを取り戻していた。
 それはたぶん、母親が死んでずっと沈んでいたところに産まれた、新しい命がもたらした奇跡なんだと思う。

 それから俺は小澤さんに見送られ、父の待つマンションへと戻っていった。送りがてら、小澤さんが父に軽く抗議してくれたけれど、それが抗議などとも思わず、父は不躾に軽く受け流して小澤さんを帰した。
「おまえのやっていることは、小さい子供がかんしゃくを起こしてだだをこねているのと同じだ」
 今となっては、父のその言葉はその通りだと思う。新しい母親とその子供という人たちに居場所を脅かされそうになった俺が、ただ小さな反抗を繰り返す。そしてその反抗に答えはなかった。父の再婚を止めればいい、義理の弟妹が生まれなければいいという、そんな話ではない。でも当時の俺は、本当に世の中が終わったと感じたことは、わかってほしい。
 父を前にして俺はまた沈んだが、なんとなく心は折れずにすんでいて、とりあえずそこそこ学校に通い、そこそこさぼりを繰り返し、のらりくらりと日々を過ごす。
 たまに嫌なことがあった時は、伯母さんの家へ行ったりもした。杏子お姉ちゃんや沙織に会うこともたまにあって、その時はたくさん心配されたが、もう何もかも洗いざらいをしゃべる気にはなれない時期に達しており、俺の近況は伯母さんにさえも打ち明けてはいない。

「やっぱり無理してるんじゃないかな……鷹緒君、うちで預からないか?」
 伯母さんの家で、小澤さんがそんな話をしたと聞いたのは、それから何年も後のことだった。
「いや、預かるならうちのほうがいいだろう。君らは沙織ちゃんも生まれたばかりだし、雅人もいるし、まだ若いんだから。ここなら杏子たちも嫁いで部屋は空いているし、鷹緒も小さい頃から来ているから少しは気が楽だろう」
 伯父さんの言葉に、伯母さんが頷いた。
「そうよ。あの子は妹の忘れ形見なんだから。出来ることならここに置きたいわ」
「うん。私もそのほうがいいと思う。鷹ちゃんが望んでくれるなら、もちろんうちでもいいけど、雅人や沙織がいる分、鷹ちゃん気を使うだろうし……」
 杏子お姉ちゃんは、沙織を寝かしつけながら言う。長男の雅人は、もうすでに眠っているようだ。
「でも、あの子の目……子供の目じゃないよ。可哀想に。母親を失くして、そんな時期に新しい母親と子供だなんて、諸星さんはわかってないんだ。あんな環境に置いておけないよ」
「鷹ちゃんのことは心配だけど、今は私たちがやきもきしても仕方のないことよ。鷹ちゃんもたまにはここに来るようになったし、あまり話さないけど、学校のこととかは話してくれる。それに……この子を初めて抱いた時の目は、前のあの子と同じだったから。あの子は変わってない。そうでしょ?」
「そうだな……本当にSOSを発したら動こう。その時すぐに動けるように、準備をしておかなくちゃ」
 そんな話が繰り広げられていることなど知らなかったが、それから三年を迎える頃には、俺は伯父さんと伯母さんの家に転がり込んでいた。
 結局のところ俺はまだ子供で、知らないところできっと、俺はそんな大人たちにいつも守られていたんだと思う。父の行動も、父にとっては俺を守る行為だったのかもしれないと、大人になった今では思う時もあるが、やはりそれは未だに受け入れられず、伯母さんの家に移ってからは、俺は父とほとんど会っていない。
 ちなみにこんな詳しい話は、沙織には話していない。これを聞いたら、また泣くだろうか――でもあの頃、俺が生きていられたのは、間違いなく君のおかげだということを、いつか伝えたい。



作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音