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準備中 -宵待杜#02-

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「準備中」


 ふと通りかかった一件の店。そう書かれた看板が掛かったドアは、半ば開いていた。
 古びてはいるが、暖かそうな木で作られた扉だ。中央に埋め込まれた磨硝子の窓からはぼんやりとした明かりが零れていた。
(ここ、開いてるのかな、閉まってるのかな?)
 そう思いながらゆっくりとドアを押し開いてみる。からんからんと、乾いたカウベルの音が鳴った。
「あれ、お客さん?」
 中で、テーブルクロスを広げようとしていた少女が目を丸くした。隣でクロスのもう片端を持っていた少年も、軽くこちらを向いて驚いた視線をよこした。
 少女は、ちょっと待っててと言い置くと、ばさりとテーブルの上に大きなクロスを投げ出すと、その蜂蜜色の長いウェーブの髪をふわふわと踊らせながら、狭い店内に並べられたテーブルや棚の間を縫って、奥へと駆けだした。少年が、仕方ないなと苦笑をして、すみません、と目だけれ謝った。そして、少女の放り出したクロスを回収して、再び店内の片づけに入ったようだった。
 動くに動けず、扉の前で中途半端に立ちつくす。
「マスター、マスター、お客さんだよー」
 少女の呼び声に応えるように、奥から全身を黒で固めた柔らかい印象の男性と、黒髪に赤い瞳が目を惹く女性が出てきた。
「え、お客さん? 準備中にしてなかったっけ?」
「してたはずだけれど、散歩の帰りにドア開け放って入れるようにしたままだったのは誰かしら?」
「あ、僕だ……」
 その女性に確信を持って問われ、彼はしまったと言う表情をした。
「やっぱりマスターね」
 少女がころころと笑う。店主(マスター)も、黒い帽子に手をやって、人懐こくこちらに笑いかけた。
「お客さん、悪いんだけれど、今ご覧の通り準備中なんだ。もう少しで開けられると思うんだけれど」
 そして、それでも準備の整っている一角を手で指し示す。
「でも、今ここにたどり着いたも何かの縁。もし準備中でもよければ、どうぞ。扉を開けたのは、確かに僕だからね」
 その店主の手に誘われるように、数歩、店内へと歩みを進めた。それを、入店の合図と捕らえた彼らは、口を揃えた。

「ようこそ、宵待杜へ」
作品名:準備中 -宵待杜#02- 作家名:リツカ