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超短編小説  108物語集(継続中)

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 署に戻った百目鬼と芹凛、しかし、しっくり来ない。長い沈黙の後、「芹凛、あの部屋にある物で蘭子を殺害し、その後、アリバイ工作はできないか?」と問うた。だが、さらに沈黙は続く。
 しかし、30分後芹凛が口を開く、「コーヒーでも入れましょうか」と。百目鬼はわかってる、芹凛が推理を組み立て終えたのだと。「うん、濃い目でな」と目配せすると、芹凛は嬉々として、コーヒーと同じような濃い仮説を語り始める。

 岸有樹は蘭子を夜2時頃に撲殺。その凶器は水を含ませ、冷凍室で凍らせたフランスパン。
 殺害後、蘭子のパンプスと偽造遺書を屋上に置き、部屋へと戻る。

 それから壁の絵を取り外し、裏返してベランダの柵の上に一方を乗せる。そして後方の金具にロープを結び、物干し竿の上を通して、その端にバケツをぶら下げる。そこへホースで僅かずつ水を注入して行く段取りをする。そして、つっかい棒により水平にした絵の上に死体を乗せて、マンションを後にする。

 時間とともにバケツの重量は増し、後方は持ち上がって、朝6時頃に傾きは45度となる。結果、蘭子は空中へと舞い落ちた。

 見事な推理だ。しかし、芹凛は動機が分からない。これを察した百目鬼、この分野は得意だ。
「岸とユーユは男女の仲。それを写真家でもあった蘭子はフォーカスし、それをネタに岸を訪ね、ヒロインに抜擢せよと強請った。暴露されれば、岸の評判は地に落ちる。あとは計画的に、岸は保身のため、蘭子を殺害したんだよ」と揺るぎない。

「ドロドロの、それでいてユーユは犯人ではないと味方する――オヤジの勘だわ。言っておきます、ユーユも現場にいたと思います」
 こう辛抱しきれず吐いてしまった芹凛に、百目鬼は「なるほど、岸とユーユの合作殺人てことか」とギョロッと目を剥いて、あとは天に向かって檄を飛ばすのだった。

「午前4時の通り雨の後に、舞い降りたもの――それは死体だった。さっ、芹凛、マンションへ行くぞ!」