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超短編小説  108物語集(継続中)

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 エラーの連鎖で自滅。拓史と洋一、そして大介は自分たちのプレーを責めた。
 そして幸子は、この不幸の始まりはあの時叫んだ「拓史!」からだった。ここ一番のあの場面で、恋心をむき出しにし、拓史に心の負担を与えてしまった。舞い上がった自我で、みんなの夢を奪ってしまったと悔やんだ。

 しかし、もう時は返らない。
 それ以来、拓史と幸子はもう目を合わすこともなくなった。

 それから10年の歳月が流れた。そんなある日、洋一から連絡があった。それは、あの時の1球を拓史に投げ直させてやりたい、だから母校のグラウンドへ出て来て欲しいというものだった。
 幸子にとってほろ苦い青春の想い出、だが今も拓史のことが好きだ。会ってみたい。そして、その心に正直に決心し、幸子は出掛けた。

 あの時と同じ炎天下のグラウンド、みんなポジションについていた。そして幸子が現れ、その顔を見るなり、すぐに洋一から声がかかってきた。
「幸子さん、審判やってくれない」
 拓史はすでにマウンドに立っている。そして大介はショートに位置取り、洋一はミットを構えている。当時の9回の裏の場面と一緒だ。

 10年経って、拓史はどんな球を投げてくるのだろうか? 幸子に興味が湧いてきた。甲子園への夢を打ち砕かれたあの1球のやり直し、だからストライクでなければならない。