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超短編小説  108物語集(継続中)

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 そう、あれは晴れた休日のことだった。単身赴任中の春樹は時間を持て余していた。たまには映画でもと、昼過ぎから町の映画館へと出掛けた。稀のことだが、昭和の映画が特集で組まれていた。もちろんその中に「喜びも悲しみも幾年月」があった。
「かって母が喜々として観た映画、それって、一体どんなのだったんだろうか?」と急に興味が湧き、チケットを買った。開演時間に合わせ入場してみると、案の定空席だらけ。こんな天気の良い日にシネマなんて、その上に作品が古過ぎる。

 しかし、春樹にとって、そんなことはどうでも良いことだ。少し後方に席を取り、まずはリラックス。しばらくしてブーと鈍いブザーが鳴り、館内が暗くなった。
 半世紀以上前に公開された映画だが、俳優が話す言葉は現代と変わらない。またストーリーも面白い。春樹は引き込まれながら、あらためて母はこんな映画を観ていたのかと熱いものが込み上げてくる。

 そんな感傷にも浸っている時に、ぱっと明るいシーンに移った。その瞬間に、春樹は目にしたのだ、最前列の席にぽつりと座る少女を。
「あれっ、女の子が一人、なんで? 始まる時にはいなかったのに」

 春樹は首を傾げ、次の明るい場面を待った。そしてもう一度目を懲らしてみると、確かに小学生くらいの女の子だ。きっと母親に着けてもらったのだろう、蝶々の形をした真っ赤なリボン、それでおしゃれをしている。
 それを可愛いと思う反面、女の子が一人、なぜ? と理解に苦しむ。

 こんな腑に落ちない状態で映画は終了し、館内は点灯された。
「えっ、あの子がいない。どこへ行ってしまったのだろう?」
 真っ赤なリボンを着けた女の子が最前列の席から、いや映画館から消えていたのだ。

 春樹はその時以来、少女のことがずっと気になっていた。そして今日、偶然にも、昭和時代の写真集の中に――発見!
 母親と手を繋ぎ、スキップを踏み映画館へと入って行く女子が……。
 ついこの間、映画館で消えた、赤いリボンを着けたあの女の子が――、そこに映っていたのだ。