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超短編小説  108物語集(継続中)

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 志ょうは元妻から寛を奪い取り、一緒になった。そして長年連れ添ってきた。知り合った頃、寛は勢いがあり、ギラギラと油っぽく輝いていた。

 あゝおとうとよ、君を泣く
 君死にたまふことなかれ
 末に生まれし君なれば
 親のなさけはまさりしも
 ……

 日本近代浪漫派の中心的な役割を果たしていた寛は機関誌・明星を創刊した。そして日露戦争に従軍する弟を思う、志ょうの詩を世に出してくれた。
 それから志ょうの処女歌集『みだれ髪』をプロデュースし、与謝野晶子としてデビューを果たさせてくれた。確かに夫はやり手だった。

 だが、『遮那王が 背くらべ石を……』とは。
 この歌にはかってのような覇気が感じられない。志ょうが男の熱き情熱を吸い取ってしまったのだろうか。それにしても結婚後、道理で寛は売れなかったはずだと、志ょうは妙に納得してしまうのだった。
 しかし、志ょうは思う。この人は一体……、なんなの? と。

 徳山女学校の教師時代に、二人の女子生徒を孕(はら)ませて、二度の結婚離婚を繰り返し、私が三人目の妻。挙げ句の果てに十二人の子供を産まさせて、本人はずっと鳴かず飛ばずの歌人。それでも無邪気に遮那王と詠み、まるで満足げだ。本当に変わった人だなあ、と。

 志ょうはこんな思いを巡らせながら、短冊を夫から取り上げた。そしてやおら筆に墨を付け、あとはさらさらと。

『何となく 君にまたるる ここちして いでし花野の 夕月夜かな』

 志ょうは達筆で、与謝野晶子と名を入れた。そして「どうですか、これ?」と寛に手渡した。
 歌人・与謝野鉄幹が「君、さすがだね、いい句だよ」と褒める。こんな言い回しに、志ょうはくやしい思いがする。寛のことを、また詠んでしまったわ、と。