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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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夜の木

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僕は、生まれたときから僕の回りにいる木や草、花と話すことができました。
 ほかの子供たちにはそれができなくて、でもそれが自然なのだと気づくのに、ずいぶんかかりました。僕が話のできる木や草と、話せないのが普通なのだと。
 でも、僕は周りの皆と話ができることがうれしかった。だから、ほかの子供たちに馬鹿にされても、区別されても平気でした。いじめられても、必ず助けてくれる大きな木がいてくれたし、転んで怪我をしたときは、葉っぱを差し出して「これを使いなさい」って言ってくれた薬草たちもいたからです。
 そんな僕が、「大きなもの」と話ができるようになったのは、僕が十五歳の成人式を終えた直後でした。成人式のお祭りのあと、ザワザワと揺れる麦畑を通りながら、傍をかすめて行く風に心地よい安らぎを感じながら僕は歩いていました。太陽はもうとっくに沈んで、暗闇があたりを支配していましたが、不思議と怖くなかったのを覚えています。そうしていると、ふと、風の中から声が聞こえました。ひゅうひゅうと音を立てる風が、人間の声のような音を立てて僕に話しかけてきました。
「さあ、空を見上げてごらん」
 風はそう言って、僕の耳元から吹き去っていきました。
 僕が空を見上げると、今度は地面から、ぼそぼそと声が聞こえます。
「星は見えるかい? 月は見えるかい?」
 僕は、首を横に振りました。
 月も、星も、いつもなら月に照らされて浮かんでいる光る雲も何もないのです。
「今日は満月。満月の夜に月がない。君は不思議に思うかい?」
 満月の夜に月がない。そんなことは考えられなかった。僕はよく、足元を照らす程よい光に導かれて、満月の夜はたくさんの草木や花と話しながら散歩を楽しんでいたのに。
 それでもこの暗闇は怖くない。僕は不思議な気持ちになってきました。
「月の女神が君を呼んでいるよ。君たちに届かなくなってしまった月の光を、取り戻してほしいと嘆いているよ。さあ、行ってやってくれないか。君にならきっとできるから」
「月の女神様のところへ僕が行くの? どうやって?」
 僕の疑問に、その大きな意志はそこらじゅうに声を飛ばして笑いました。
「目を閉じて」
 耳元で、男の人の低い声がしたので、その力強い声にしたがって、僕は目を閉じてみました。すると、僕の体から一気に重さが抜けて、足は地面から離れて、風の中にたくさんのものの声がこだまする夜空の中を、泳ぐように、宙に浮いて、風を切って、どこか遠くへと導かれていくのでした。
作品名:夜の木 作家名:瑠璃 深月