小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私を泣かせてください

INDEX|1ページ/24ページ|

次のページ
 
「こんないい加減な企画が通るとでも思っているの? あなたの頭の中を一度、覗いてみたいわね!」
 編集長、大田由美子の金切り声が、狭いフロアの中に響いた。重田幸三はただ頭を項垂れている。
由美子が書類をバサッと机の上に放った。綴じられていない書類は、乱雑に散らばる。幸三は下唇を噛みながら、それを見やった。
「これでも真剣に取材して、考えてきたってわけ?」
 由美子が幸三を更に問い詰める。
「はい。一応は……」
「何よ、一応はって……。そんなだから、いつまで経っても一人前の仕事が任せられないのよ。あなたの記事はまったく読者の心を掴まないわ」
 由美子の言葉はグサリグサリと幸三の心に突き刺さった。それは今日に始まったことではない。記事を書けば、必ず由美子からお咎めを受けるのだ。
「あのー、僕の記事のどこがいけないんでしょうか?」
「そんなの自分で考えなさい」
 その由美子の返答も、またいつも通りなのだ。
「あなたはね、人生経験が薄っぺらいのよ。だから、薄っぺらな記事しか書けないのよ」
 由美子のその言葉を聞いた途端、幸三はどん底へ叩き落されたような気がした。幸三は背中で同僚の記者たちのせせら笑う気配を感じていた。少なくとも、幸三にはそう感じられた。
 幸三がこの出版社に入社して二年が経つ。雑誌担当の部署に配属され、記者としてはまだ駆け出しといったところだ。今年入社した水木隆という後輩も既にいたが、彼がまだ仕事が出来ず、由美子に怒られるのは致し方ないところである。幸三はそんな水木に何の指針も示せず、ただ頭ごなしに由美子に叱られることが情けなかったのである。
「もう一度、書き直します……」
 そうは言ったものの、幸三に自信があったわけではもちろんない。そう言わざるを得なかっただけだ。幸三の肩に暗く重い荷物がドッサリと乗っかった。
「そうして頂戴。それと、一応それのフォーマットだけ貰っておくわ。社内メールで送って頂戴」
「はい……」
 幸三は書類を無造作に手に取ると、自分の席に引き上げていった。
 隣に座る水木だけが気の毒そうな視線を幸三に送っていた。だが、他の同僚は皆、自分の仕事に集中している。
 幸三は「ふうっ」とため息をつくと、椅子に腰掛け、書類を放った。
「編集長、機嫌が悪いですね」
 水木が小声で囁く。
「いつものことじゃんか」
「先輩、今夜飲みに行きません?」