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君に秘法をおしえよう

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暁斗・血縁



 桜の盛りに、母は死んだ。

 肝臓がんで、四十五の誕生日もむかえずに死んでしまった。うちは、父も早くに亡くなっているためオレは未成年孤児になってしまった。


 オレは手のひらにあるメモ書きを、じっと見つめていた。


 そこには、母の父親、つまり祖父の住所が記されていた。葬式に呼ばなければならない。母は家出同然に実家を出たので、親や親戚とは、ずっと音信不通だったのだ。

『気が重いなぁ……』


 知らない親戚など、本当は会いたくない。会いたくない理由は、他にもあった。母は自分が死んだら、その祖父にたよれ、と言っていたからだ。


自分は死ぬまで会わなかったクセに、オレには会えなど、勝手な話だ。この件については何度も言い合いになった。結局、決着はつかずに母は逝った。


母の友達だった由香里さんが、何度も「お祖父さんに連絡した?」と、確認してくる。
葬式は待ってはくれないのだ。

『えーい』
 オレはヤケクソで電話番号を押した。


母の兄と名乗る男性がやってきた。
母の両親、つまり祖父母は、数年前に亡くなった、と電話で言っていた人だ。

温厚そうな伯父の風貌に、オレはとりあえずホッとしたものの、その後ろに控えていた家族をみて驚いた。

「あ」
 ふたり同時に声をあげた。

高原正宗が口を開けたまま、また、まじまじとこっちを見ていた。


『えっと』
 数秒考えて、状況を理解しようとした。

伯父さんの息子? だとしたら、オレたちイトコどうし?


「……だったから、大変だったろ。後は、どうしようか?」
 伯父さんが、葬式の段取りを話しかけてきたので、慌てて意識をもどす。

「あ、はい。よろしくお願いします」
「喪主は君……えーと」

「あきとです」
「あきとくん? じゃ、君がして、他は大してないみたいだけど、ややこしいことがあれば、僕たちに相談してよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 なんだか、少しだけ気がラクになった。未成年のオレには、まだまだ分からないこと、出来ないことばかりだ。頼りになる大人がいてくれるというのは、心強いのだと、この時初めて感じた。

 

「大丈夫?」
 出棺も終わり、ふっと気が抜けた頃、高原正宗が遠慮がちに声をかけてきた。

「あ、はい」
 オレは薄く笑った。

「えっと」
「驚きました。高原さんが、親戚だったとは」

「俺もだよ。って、高原さんじゃなくて、正宗くん、って呼んでよ」
 オレはふき出した。

「なんだか、ご当地ゆるキャラみたい……」
「仙台のご当地キャラは、独眼竜ねこまさむね、くん、ていうらしい」

「よく知ってますね」
「友達が色々言うから、自然と詳しくなった。他にも、菊正宗とか、まっさん、とか、まぁくんとか、色々あるから、どれでもお好みなの使っていいよ」

「でも、いきなり先輩に、まぁくん、ってのは……」
「先輩じゃなくて、イトコ。……イトコなんだから、まぁくんでゼンゼンOK」

 なんだか、ちょっと嬉しそうなのはナゼ?

「じゃあ……とりあえず正宗さん、にしておきます」

 運動部、それも上下関係に厳しい、?道?のつく競技で、いくらイトコだからって、まぁくんとは呼べないじゃないか。


「なんだよ、暁斗は。水くさいなー まぁくんでいいよー」
 そっちは、もう暁斗呼ばわりかよ。

しかし。

高原家は何か特殊なことやってなかったっけ?



―俺んち祓い屋みたいなことしてるから、ちょっとは、そういったの分かるんだ―

―ということは、伯父さんは、お祓い屋?

「高原家のこと、気になる?」

 正宗が、ジャストに聞いてきたんで、オレはビックリした。
この凡庸そうな色白メガネ男子は、見かけによらない。だいたい、どーして体育会系なんだ。見た目は、どうやっても坊ちゃん文科系だろ。


「ああ、分かるんだ、俺。人の考えてること」
「うそっ」
「うそ」
 気が……

「高原家はねー 小さな神社の宮司なんだけど、陰陽師系でね。これは表だってはあんまり知られていない……からヒミツね」

 親戚相手にヒミツも何もないだろう? あ、世間様に秘密ってことか。

「陰陽師はドロドロしたのを扱うだろ? 鏡子叔母さんは、そういうのが嫌で家を出て行ったじゃないかな……実際は分からないけど」

「母さんの実家が陰陽師をしてたなんて、はじめて聞きました」

「だろうね。頑なに、俺たちとの接触を避けてたもの。……けど、なんで今になって連絡を取ってきたのか……あ」

 正宗はそこで言葉を切った。

作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ