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君に秘法をおしえよう

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正宗・疲れた子ども1



 ざざーん。

 碧の波が重い。

 南千倉の海岸に打ち寄せる波は高く、サーファーたちにも人気のスポットだ。今日もそこここに彼らの姿があった。俺と暁斗はカフェを出ると、砂浜を歩きだした。

 俺がここが好きなのは、適度に人間らしいからだ。水辺は気がいいし。

 霊能者は、よく山に籠るけど、俺はあの独特の雰囲気が好きじゃない。パワースポットといえど、日本の山はどうも陰気なのだ。

 海に開けた空間は大きく、風と波が常に動いていて、動的だ。山は木や岩があって、気が回りにくい。静的なのだ。


 それより。

 さっきから暁斗くん、機嫌悪そうなんですけど……  いや、そこまでいってないけど、何というかちょっとだけ悲しいというか、放っておくと、そのまま忘れてしまいそうなくらいの感覚だけど。

「ね、なんかびみょおに、自分責めてない?」
「えっ!」

 暁斗は心底驚いた顔をした。バレたのがまずそうな表情をしているけど、分かりやす過ぎなんだよ。もう俺たち共鳴しているんだから分からないほうがおかしいって。

「なんで?」
「だって……顔くらいし、気がうちに向いてる。そういう時はたいがい、自分に囚われている」
 暁斗は何ともいえない表情をして俺から目をそらさすと、視線をさまよわせた。

「なんか……オレって何だろう、って思って。正宗はいっぱいやれることあるのに、オレは何も出来ない。やりたいこともよく分からないし」

「ああ。やらなきゃいけない主義の罠にハマってたんですな」
「やらなきゃいけない主義?」
「うん。えっと、そういう時はいいサイトがあるんだ」

 俺はモバイル端末を取り出すと、ネットにつなげ暁斗に見せた。


―やりたいことが見つからないのは、「こころ」が疲れているから―

自分のこころが元気なときは

やりたいことなどなくても そんなに気になりません

落ち着いて、日々の生活を送っているだけでも満足するものです

ですが 非常に疲れているときほど なぜか

「がんばらなくちゃ」と思ってしまうのです

そうすると、さらに自分の首を絞めることになります

本当は休息が必要なのです

(中略)

本音であるがままに生きていれば、とてもラクです

自然にやりたいことが出てきます

動物でいえば猫を見習ってはいかがでしょうか

犬はイヤな時でも義理でしっぽを振りますが

猫はエサをくれる人でも、自分がイヤな時はプイとどこかに行たりして、非常にマイペースです

じゃ、猫の世界はバラバラなのかというと

それなりに上手くやっているのです

これからは猫を目指して、他人と自分のあるがままを受け入れていけばいいのです


生きている存在は 生きていくことが目的です

人間とて例外ではありません

あまりに複雑になった人間社会では

やりがいを

人より目立つこと お金を稼ぐこと にすり換えているので

混乱していくのです。

ですが

毎日食べていけているあなたは すでにすごいんです

それが 親のお金であろうと 他人の家であろうと

誰かれに面倒みてもらっていようと

食べていけるということは 動物として成功している証です



「成功してるんだ」
 暁斗は半ば笑いながら端末を眺めていた。

「そうです。成功しております。何かにならなくちゃいけない、ていうのは、資本主義と青い鳥症候群の妄想であります」

 暁斗は鼻で笑うと、ちょっとだけホッとした顔をした。俺の家にやっかいになっていることにも、肩身の狭い思いをしているんだよな。いくら気にするな、と言ってもそれは無理な話。

 だから、俺は人が書いたサイトを見せたんだ。今、俺にコンプレックスを感じているのに、その人間が何を言っても説得力ないだろ。


 暁斗は俺に端末を返すと、はじめてちゃんと視線を外に向けた。そして、沖合いから吹き付ける海風に目を細めた。

熱心に波に乗るサーファーたち。しばらく見ていると、面白くって釘付けになった。結構うまい奴が多い。

「はは、コケた」

 長く波に乗っていた緑色のスーツの男性が白い泡に包まれた。

「オレって疲れてるのかなぁ?」
 暁斗がぼそりと言った。
俺はどう答えていいのか分からなくて、しばらく間があいた。

「病気になってるから、そりゃ、疲れてたんだろうけどさ、そんなに疲れって続くもん?」

「高校までいじめを受けていたある男子は、卒業したとたん起き上がれなくなったって話を聞いたことある。十二年間、すごく頑張って頑張っていじめと戦ってきたんで、疲れてエネルギーが無くなってしまったらしい。何年たっても回復しなくて、確か、俺がその記事を読んだ時点でも、まだ普通には暮らせてなかった、と思う……俺もよく似た感じの経験あるから、分かるな」

「え?」

作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ