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君に秘法をおしえよう

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暁斗・アナタの知らない世界1



「あれ、調子悪いの?」
 学校から帰ってきた正宗が、ベッドに入っているオレをみて言った。

「ううん。いっぺんに動いて倒れたらいけないから、休んでるだけ」
「ああそう、よかった」
 部屋の入り口の襖に手をかけながら、正宗はちょっと下を向いた。何か言いたそう?

「あのさ、明日調子がよかったらドライブ行かない? 季節もよくなってきたしさ、気分転換に」
「え? いいけど」

明日は日曜日だから人が多くないか?

「早く出て、早く帰ってこよう」
「分かった」


 次の日、きれいに晴れた。
 南房総に行くと正宗は告げて、順調に湾岸道路まで車を走らせる。東京湾アクアラインに入ると、いきなり海上だった。

「うわぁ」

 大きく開けた空間といっぱいの空がパァっと開けた。都会にいるとマヒしていた感覚が戻ってくる。

「窓、開けていい?」
「いいよ」

 窓を降ろすと、ゴォっと風が入ってきて顔に吹きつけた。いろんな情報がつまった風。潮の匂い、煙の匂い、排気ガスの匂い、空気中にただよう生きものたちの匂いも、みんなごちゃごちゃになっている。でも、いい気持ちだ。何より人の気配が少ないのがいい。


「ときどき、こうやって郊外にくるんだ」
 正宗も心なしか清々しい表情になっている。


「ずっと東京にいると、だんだん滓(おり)が溜まってきて、微妙な感覚が分からなくなる。何より、自然のエネルギーが少ないから疲れるんだ」

「正宗でも?」

「アタリまえだろ。都会は人間の思念だけでもものすごいのに、最近はWifiとかスカイツリーのお陰で、強電波が飛び交ってるから、めっちゃしんどい」

「やっぱ、そうなんだ」
 オレは自覚してなかったけど、電波なんかも疲れる原因なんだな。


「もう必死になって浄化しないと追いついていかないわけ」
「よく浄化って言うけどさ、それってどうするの? あの導引の本に書いてあったように呼吸に合わせて気を動かすこと?」

「そだよ。自在に動かせるようになること。人間はストレスで気の流れが悪くなるから、導引で気を流すんだ。最初はよく分からなくても、そのうち気のエネルギーをハッキリ感じるようになってくる。ちょっと電気的な感覚だね」

「何か、ちょっと怖い感じ」
「なんで?」

「だってコントロール出来なくなったらどうするの? ビリビリとかジンジンした感覚がどんどん強くなったら怖いよ。ぐるぐる回ってるし」

「回ってる? どこが?」
「胸とかお腹とか。時々、ジンジンしたのがくるけど強くなってくると怖いから、それ以上はしない」

 正宗は何かを考えているようだった。

「とりあえず、今はそれ以上しなくていいと思うよ。……いっぺんにやるとまた体に負担がかかるから」

 ずいぶんと後で教えてもらったんだけど、オレはクンダリニーってエネルギーが活性化されそうになってたんで止めたんだって。クンダリニーっていうのは、下腹部に眠っている、人間の生態エネルギーの極地で、これが背骨を伝わって上昇すると超能力が身につくといわれている。

 けど、それは上手に開花させないと色んなトラブルが起こるんだそうだ。


「でも、浄化が出来ないってのはなぁ」

「浄化というより、調整っていうほうがいいかも。浄化って言うと、汚れているという前提がたってしまうから。レイキでやればいいんじゃない。アチューンメント受けてみたら? こんど俺の先生に言っておいてやるよ」

  *アチューンメント……情報をエネルギーで転写・伝播させる手法。この場合は先生から生徒へと伝授される形式のこと。


「……うん。でも、どうして正宗がアチューンメントしてくれないの?」
「だって、俺、師範とってないもん」

「え、そうだったの? てっきり取ってると思ってた」
「どーも方向性が定まらなくてねぇ」

「だいたい、医者になるのか陰陽師になるのかも分からないもんね。どっちもするの?」
「うーん」

 高速道路の標識を確かめながら、正宗は口をとがらす。迷っているのは分かるけど、オレからしたら贅沢すぎる悩みだよ。こっちは高校中退かもしれないってのに。



 道路は空いていた。時間も早かったからなんだけど、お目当ての場所に到着したのは、十時過ぎだった。南房総の千倉町付近は、ちょっとしたカフェどおりらしい。海を眺めながら、ゆったり出来るので、わざわざくる常連客も多いとか。海が近いのでサーファーたちもよく利用しているみたいだ。


 オレはこんなトコ、ぜんぜん知らなかったんで嬉しいカルチャーショックだった。田舎ぐらしというか郊外型生活とか言うらしい。緑と土が見える空間は気持ちがくつろいでいく。


 入ったカフェは、窓を向いて座るようになっていて、太平洋が本当にきれいに見えた。青い海に、水色の空、少しだけ薄くかかる雲が水平線の上に浮かんでいる。なんて、気持ちいい空間だろう。

 オレたちはしばし言葉を忘れて、海の彼方に意識を飛ばした。

「あー やっぱりいいな、ここは」
「うん」
 半分ぼけーっとしながら答える。


「あー四国なんて行きたくねー」

 正宗は突然そう言うと、目をつむりながらアゴを上げた。

「四国?」
「父さんが、ゴールデンウィークに、四国八十八ヶ所にプチ修行に行こうって言いだしてさ。気感を鍛えたいのは分かるけどゴールデウィークだぜ。いくら裏ルート通るからってすごい人に決まってる」

「気感が鍛えられるんだ?」

「う……ん、四国八十八ヶ所は霊場って言われているだろ。弘法大師が修行に選んだくらいの土地なんで、パワーの強い土地なんだ。死国って言われてくらいだしな」

「そうか。ちょっと行ってみたいかも……」
「ほんと、元気だったら暁斗に代わりに行ってもらいたいよー」

 正宗は右手を伸ばすと、その中につっ伏した。
 そんな事をしているうちに、頼んでいた野菜カレーとたらこクリームスパゲティーがやってきた。オーガニック野菜のカレーと海の近くのたらこスパは、文句なくうまくって、お互い、皿を交換して味見をした。


作品名:君に秘法をおしえよう 作家名:尾崎チホ