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たぬき小僧

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「いいや、確かにこの寺に入るところを見たぞ。そこの小僧があやしい。この間まで、寺にゃ小僧さんなんぞいなかったぞ」
 ポン吉はドキッとしました。心臓が凍るような思いというのはこういうことをいうのでしょう。
「何を言う。この小僧は珍念というて、わしの親戚から昨日、あずかったものじゃ」
「まあ、和尚さんの言うことだから間違いはなかんべ」
 一人の村人がいいました。でもなっとくしない村人もいます。
「そうだ、タヌキが化けた時にゃ、しっぽが残るんだ。小僧さんに後ろを向いてもらおうじゃねぇか」
 一人の村人が言いました。ポン吉はついにこの時が来たと思いました。村人たちは「後ろを向け」と騒いでいます。ポン吉はすがるような目で和尚さんの顔をのぞきこみました。けれど和尚さんは少しも慌てた様子はありません。
「ふーむ、仕方がない。珍念や、後ろを向いておやり」
 ああ、和尚さんまで裏切るのか……。そう思うとポン吉は悲しくなりました。でも仕方がありません。ポン吉はしぶしぶ後ろを向きました。
「いや、こりゃ、うたがったりしてすまねぇことをした」
「まったく悪かっただ」
 村人たちの声がポン吉の背中から聞こえてきました。
 ポン吉は村人たちの方を向くと、気づかれないようにお尻をさすってみました。するとどうでしょう。しっぽがないではありませんか。
 村人たちは「今度見つけたらただじゃおかねぇ」などとポン吉のことを言いながら帰っていきました。
 ポン吉はしばらくポカーンと口を開けたまま立っていました。
「これ、珍念。ボーッとつったっとらんで、お墓の掃除をしてまいれ」
 和尚さんがポン吉に声をかけました。
「おら、珍念じゃなくてポン吉って言うだ。タヌキだ」
「おまえのどこがタヌキじゃ?」
 ポン吉はタヌキに戻ろうとします。でもタヌキの姿には戻れませんでした。
「うわーん、和尚さん、おらを元のタヌキに戻してくれよー!」
「はて? わしはタヌキなど預かった覚えはないぞ。預かったのは親戚の珍念じゃ。それより、さっさとお墓の掃除をしてこんかい!」

 それからというものポン吉は珍念として暮らし、立派なお坊さんになったとのことです。


(了)
作品名:たぬき小僧 作家名:栗原 峰幸