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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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金木犀の薫り

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演技者


僕は教室の窓から庭を眺めた。三階なので良く見渡せる。
もみじが色づき始めている。
金木犀の香りも感じる。
オブジェから機械へと変わったミシン。命が宿ったのだ。
このミシンを描く生徒にも新しい何かを感じた。
「先生このミシン生き返ったわ」
なんでもないような言葉ではあったが、僕にはとても新鮮に感じた。
芸大に絶対入学させる。
僕は自分に言い聞かせた。
そして女の事を考えた。
行かない訳には行くまい。電車の時間を気にしなくてもいつでも帰れるように、車で行こうと考えた。一時間あれば着く。高速を使えばその半分かもしれない。
五時一五分のチャイムを待って、タクシーで自宅に帰った。
女の家に着いた時はすでに暗くなっていた。
部屋の灯りがともっていた。
道路に車を止め、ドアホンを鳴らした。
直ぐにドアが開いた。
「来てくれると思った。電話してくれればお迎えしたのに」
「車で来たから」
「道路は駄目よ。庭に入るわ」
女の車の脇であったが、少し芝にはみ出した。
「シーマね。すごい」
「用事が済んだら帰るかもしれない。仕事忙しいから」
「解ってる。今夜嫌な奴が来るの、川田さんが頼りなの」
「どんなこと」
「前に付き合っていたんだけれど、AV女優になれってしつこいんだ」
「断れないってわけか」
「少し怖いのよ」
僕は女を助けてやろうと男気を感じた。
女の入れた紅茶を飲んでいるとチャイムが鳴った。
すらりとした茶バツの男が入って来た。
「伯父さんよ」
「山田です」
男はぶっきらぼうな挨拶をした。
「用件はマリアから聞いたが絶対に駄目だ」
「おっさんもう契約しちまったんだぜ」
「マリアも承知しているのか」
「そんな話は知らないわ」
「契約は無効じゃないのか」
「俺はマネージャー、金も頂いているし、断れないよ。ごちゃごちゃ言うと仲間を呼んでかっさらって行くぜ」
「それならこちらは組の若いものを呼ぶとしようか」
僕は携帯をテーブルに乗せた。
「金はいくら貰ったんだ」
「契約の手付けで30万です」
男の口調は明らかに静かになった。
「半分の15万はくれてやるから二度とマリヤには近づくな」
僕は念書を書かせた。へたくそな文字である。
「度胸ある。いい車のはずよね。助かった。マリアはどんな人でも気にしないから」
と言いながらも女の顔はひきつっていた。
僕は三年二組の担任である。冗談交じりの啖呵であった。
女がまともに受けているようなので、僕は心配になった。
「僕は普通の人間だよ」
「ホントに」
「それよりゴンは」
「近くの友達に預けた」
「引き取りに行こう」
「はい」
女の顔はいつもの顔に感じた。ゴンを引き取ると、金木犀の咲いている公園に向かった。
「本当は何のお仕事なんですか」
「絵を教えているよ」
「そうですよね。さっきのは演技ですよね」
「そうだよ」
「良かった」
女は僕の体を叩いた。
金木犀の香りが漂ってきた。

作品名:金木犀の薫り 作家名:吉葉ひろし