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天空詠みノ巫女/アガルタの記憶【零~一】

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『既に露西亜と支那は、これに賛同する動きをみせており、この一連の流れを受けて揺れる長多町では、与野党内での首脳陣による動向が、これから活発となるものと思われます。
 また、畠山官房長官は昨日の会見におきまして、先の国会で可決された「国民共通番号制度」を、前倒しで実施させたい意向を述べました』

 水平線から朝陽が顔を覗かせた頃、先ほどまで掛かっていた深い霧はいつの間にか晴れ渡り、彼女の目前には黒々とした太平洋の大海原が広がっていた。
(大統領が長期政権を目論む露西亜と、桁外れな格差社会の支那……。どちらも、独裁的な人民統制と体制作りには余念がありませんわね。この国にしても、官僚の操り人形と化している現執行部は、先見の明を持たない親米派ばかり……。これでは亜米利加のご機嫌取りに奔走し、亜細亜の中では孤立する一方……。このままでは、この国の崩壊も目に見えていますわ)
 彼女は、この海の遥か彼方から迫りくる脅威を、はっきりとその目に捉えていた。
(誰かがやらなければ……。お父さまの御志は、私が必ず継いでみせます)
 今まで映し出されていたニュースソースを閉じると、その携帯でとある場所へと電話をに掛ける――それが繋がるや否や、彼女は吼えた。
「行動を開始しましてよ!」
 彼女のその声に呼応するかのように、今まさに眼下の港から出航していく一隻の中型船舶があった。
 その船の後部デッキには立派なクレーンが設置されていたが、分厚いシートに阻まれて、吊り下げられた物が何であるのか、この場所からは伺い知ることはできない。
 それを見つめる彼女の耳には、通話が切れた後の、ツー……、ツー……という音だけが、いつまでも聞こえていた。
(もう、後戻りはできない。誰も代わってはくれない。逃げることさえできない。これが私の使命なのですから……)
 そう心に誓うと、彼女は公園を後にした。

 いつしか辺りは喧騒に包まれ、行き交う人々の雑踏で溢れていた。
 静止していた時間は再び動き出し、街は深い眠りから目を覚ます――そこは春の気配だけを待ち侘び、やがて訪れるであろう『約束の日』など全く予感させないほど、ごく自然に一日を始める。
 付近の学校からは、始業を知らせるチャイムが鳴り響いていた……。

 「序 獣の刻印」 了 次回…… 「一 炎のカッパ記念日」につづく