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出会いは衝撃的に(後半)

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「浅野さんはね、小絵ちゃんを選んだのよ。わたしはね、四月に目黒駅西口で偶然浅野さんのタクシーをみつけたとき、そのときのことを思い出したのよ」
 浅野ははっきりと十四年前のことを思い出していた。
 それは、彼が高校二年の夏休み中のことだった。そして、その日の晩の遅い時刻に、彼の父が救急車に連れ去られたのだった。
「すみません。美絵さんを、ちょっとお借りします」
 浅野がそう云うと、誰も反対はしなかった。
 浅野は別荘の中の最も遠い部屋へ、美絵と共に移動した。そこは、絵の具と画用油の匂いが鼻を突く広い部屋であり、すぐに村田画伯のアトリエだと判る部屋だった。制作途中らしい大作などが、壁際に幾つも立てかけられていた。浅野は美絵をそこで抱きしめた。
「だから、わざと追突したんだね……十四年間、俺は恨まれていたんだね?それで、そのときに俺が小絵ちゃんを選んだ結果、美絵ちゃんはつまり、失恋をしたということなんだね。十三歳の少女の失恋って、どんな……しかし、美絵ちゃんは十四年間も諦めなかったんだ……感謝するよ。ありがたいことだよ。俺もさ、多分ずっと美絵ちゃんを想っていたんだ。だから、今まで恋愛をしなかった……」
「何だか調子がいい気もするけど、わたしの夫になることは決めたのね?間違いないのね?」
「うん。間違いないよ……十四年前のあの日、俺はきみのその完璧な美しさを、絵画というものの中に表現する自信がなかったんだ。だから、十歳の小絵ちゃんを選んで描いたんだ。それにね、俺は初めてきみを見たときに、その瞬間に恋に落ちていた。だから、余計に切なくて描けなかったんだ。美絵ちゃん。愛してるよ」
「智明さん。愛してるわ……」
浅野は美絵にくちづけをした。それは、山の上で寒さに震えながらのあのときとは、長さも、深さも、その内容全てが異なるものだった。