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再び桜花笑う季(とき)

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5.口論



今思えば、何も考えずにとりあえず車に乗り込み、どこかの崖まで突っ走ればそれで目的は達成されたはずだ。
だが、意気地のない私は、思ったように自分の体が動かないのを理由に、決行をその日延ばしにしてきた。

それから何度めのリハビリの時だったろうか、三輪さくらはリハビリ室にはいなかった。また、体調が思わしくなくなったんだろうか。

そんなことを思いながら帰りがけ、いつものように夕食の弁当を調達しようと地下の売店に下りると、そこに彼女はいて、なにやら雑誌の会計をしているところだった。
「三輪さん、今日は非番?」
「ああ、松野さん…今日は通院です。」
彼女はそう言いながら、私に弁当を次々指さし、どれが良いかと目で聞いて、私が頷いたものを持ってレジカウンターに置いた。
「ありがとう。」
私はそう言って、自分の会計を済ませ、膝の上に弁当を乗せた。すると、彼女は当然のように私の車椅子を押して歩き始めた。
「あ、三輪さん、良いですよ。非番の日まで患者の面倒なんか見なくても…それに、体調悪いんでしょ?」
慌てて私はそう言った。
「体調の方はもうすっかり。今日行ってきたのは、婦人科なんです。」
すると彼女はそう言った。私は婦人科と聞いてごくりと唾を飲み込んだ。
「おめでたですか。」
そして私がそう聞くと、彼女は一瞬口ごもった後、
「いいえ…」
と言った。見上げると何とも複雑な表情をしていた。
「すいません、失礼なことを言ってしまったみたいですね。」
「そんなことないです。私、以前にあんなこと言ったし、そう思うのは当然ですよね。」
私が謝ると、彼女はそう返した。
「私、この半年ですごく痩せたでしょ?」
「ええ、曽我部さんにダイエットされたって聞きました。」
「私ね、32kg痩せたんです。」
「そりゃ、すごい!頑張られたんですね。」
私は32kgと言う数字を聞いて驚いた。以前は確かに明らかに太りすぎていたが、そんなに減量していたのか。32kgと言えば、小学生一人分に相当する重さだ。
「ええ、頑張りすぎたんです。だから、生理がなくなっちゃった。」
「…」
「ごめんなさい!男の方に言う事じゃなかったですね。」
思わず言葉を失った私に、彼女は慌てて謝った。
「いえ、大丈夫ですよ。これでもかつては子持ちですからね。こんな話題でどぎまぎするような若造じゃないですよ。」
「あ…そう、そうですか、なら良かった。このまま放っておくと一生子供は産めないって言われて、通ってるんです。」
しかし、私は彼女のこの台詞に激しく反発を覚えた。この前もそうだったが、生死の境を彷徨うようなくらいに思っていた男が死んでまだどれほども経っていないと言うのに、あの笑顔やこの言い草は何だと思った。
「三輪さんは、彼のことをさっさといい思い出にして、新しい男を見つける訳ですか!看護師の三輪さんのダメージを少しでも減らそうと、別れまで切り出したそうなのに。悲劇だな。」
そこで、私は皮肉たっぷりにそう言った。
「あなたに何が解かるんですか!!」
すると、彼女は私の車椅子をどんと前に突いてそう叫んだ。