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佐々川紗和
佐々川紗和
novelistID. 31371
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サトラレて0/1

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世間ではツイッターなるものが流行っている。
気の合う仲間といつでも気軽にコミュニケーションをとることができるのだ。
さらには情報の共有など簡単に行ってしまう便利な代物。
一回の投稿には百四十字と字数制限があり、ごく短い一言、つまりはつぶやきを載せるようなもの。
さらっと読むことができるので、私はいつも電車での暇つぶしに利用している。

今日も仕事が終わり、混みだした電車に身をよじるようにして乗り込む。
私は一つの路線に長い区間を乗る。車両の中心で吊革にでもつかまっていれば、たいてい途中で降りる人と入れ替わりに座ることができる。そして今日もほどなく正面の座席が空席に。

ひそかに深呼吸ひとつ、まだ停車駅までの距離は長い。
今日は仕事で上司に嫌味を言われた。
いい人なんだが言い回しがたまに、きつい。
私は本を読む習慣があるわけでもないし電車はなんだか眠る気にはならなかった。
なんとなく今日もツイッターをのぞく。気分を切り替えたい。
隣の人に覗かれるわけでもないけれど、携帯を顔の正面で抱え込むようにして自分だけに見えるようにする。どうでもいい防衛反応が癖づいた。

yuu0098:『イケメン男子はどこにいけばいるの?』

友人のツイートだ。
彼女はいわゆる男好き、四六時中「良い人いない?」が口癖の甘えん坊さんだ。
またこんなこと言ってる。でもその素直さがかわいいとも言え、うらやましい点だ。

電車が大きく揺れる。
座っていた私の体も車体と共に揺れ左足が一歩前に投げ出された。軽い衝撃。
横に立っていた男性と足がぶつかった。無言で頭をさげ、ちらりと見やる。
私はすぐさまツイートの入力画面を開いた。

0aina12:『目前に超絶イケメンいるよ!』

ツイート、送信。
のち、反応があり。

yuu0098:『マジ!?今どこよ?合コン?紹介してよ』

0aina12:『残念ながら電車で~す。モデルみたいにかっこいいよ、ちょっと興奮する』

yuu0098:『きゃー!憎い!私も見た~い』

0aina12:『それは無理でしょ(笑)それより、こないだのk君はどうしたのさ』

yuu0098:『おっと、その件に関しては明日、なんてどう?(^^)/久しぶりに飲もう!』

0aina12:『はいはい、OK!楽しみにしてるから』

また振ったのか? 相変わらずだなぁ。
でも明日は久しぶりに遊ぶ。気がつけば口角が自然と上がっている。
ほんの数行のやりとりで不思議にも元気が出た。

yuu0098:『頑張ってイケメン捕まえてね!』

0aina12:『任せて!お姫様だっこしてもらいたい』

冗談交じりの会話。もちろん見ず知らずの人にそんなことするわけではない。
突然、さっきの男性がまるで笑いを噴き出したようにせき込みだした。
「だ、大丈夫ですか?」
勇気を振り絞って小声で話しかけてみた。「ええ、すいません」と一言、向けられた笑顔がさわやか。
見とれる間もなく、電車は駅に到着。
予想外の目の保養にスキップでもしたくなった足を自制。人の目って気になるものだし、ね。
家までは徒歩6分、帰りに駅前のコンビニでデザートでも買ってかえろう。


    *    *    *    *    *


俺は電車に乗るときはただ外を眺めていることが多い。
電車の速さに身をまかせて変わる風景。帰宅時間、夜の闇と共にきらめくネオンは安い居酒屋の看板もその一つとなって楽しませてくれる。
ただただ、眺めているだけ。
ネオンが少ない風景では窓に車内の明かりが反射される。
隣のおじさんは眠そうだし、ななめ後ろの女子高生はずっと携帯でメール、だろう。外の景色さながら、電車の中で周りの人の様子をそっと観察するのもまた楽しい。

電車では揃いも揃って携帯を見ている人ばかりだ。
俺はと言えば、何気なく反射された窓を眺めていた。
窓に映る自分はまぁ無表情。なんだか疲れた顔してんな。
ふと目線を下げると、斜め前に座る女性の携帯画面も反射されている。
この人もずいぶん疲れた感じの顔だけど……さっきからなに書いてんだ。
ツイッター、みたいだな。雰囲気が。
あ、笑った……?_
だめだ、だめだ、プライバシーだぞ!
次の瞬間、目に入ったのは『お姫様だっこしてもらいたい』。

……メルヘンだなぁ。
思わず吹き出してしまった、疲れた顔に似合わないかわいらしさだ。
「だ、大丈夫ですか?」
やばい、変に思われたかも。
「ええ、すいません」
申し訳ない!
お姫様か、やっぱり大人の女性でもういうの憧れるんだな。
俺もそろそろ彼女欲しいけどなぁ、ま、無理に作るものでもないか。
でも優しそうな人だな、こういう人の王子様ってどんな奴なんだろう。
ああっと、降りなきゃ。帰りは駅前のコンビニでビールでも買ってくか。
作品名:サトラレて0/1 作家名:佐々川紗和