小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ミリオンロール

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
「日給100万円のアルバイトをしてみませんか?」

僕、空野頼歩(そらの らいふ)の物語は一通の怪しい手紙から始まる。

「あぁ、また胡散臭いアルバイトの紹介か……」

郵便ポストから取り出した手紙を見て、深くため息をついた。

ここ数ヶ月、一人暮らしをしている僕のアパートへこういった手紙が

大量に届くようになった。

その理由は、僕自身の将来の夢に関係している。

僕は大学4年生で、3ヶ月後に大学を卒業する。

3年生の時に、とある有名な企業から内定をもらうことができたけど……

正直、半年くらい前から自分の将来に不安があった。

それというのも、内定先に就職するのではなくて

シナリオライターになりたいと真剣に考えるようになったからだ。

大学では別の研究をしていたので、シナリオライターになるには

一から勉強し直さないといけない。

今からでも内定を辞退して、僕は自分の夢を叶えたいと真剣に思っている。

いつかは人を感動させる文章を書きたい。

具体的にはどうすればいいか、自分なりにだけど精一杯考えてみた。

やっぱりお金を貯めて、養成所に通って、基礎を勉強する必要があると思う。

できれば、シナリオライターを目指すきっかけとなった憧れの人が通っていた

養成所に通いたいという気持ちがある。

しかし、そこの養成所は入学金や授業料を事前に一括で支払わなければいけない所

だったので、今の自分の全財産では到底足りないという悩みを抱えていた。

具体的に言うと、300万円程度のお金が必要になるだろう。

僕の全財産は100万円くらいなので、およそ200万円ほど足りない。

普段なら、お金に困った時は素直に両親に相談しているところだけど……

今通っている大学の費用も全て支払ってもらったし、

これ以上のわがままを言うことはしたくない。

だから、アルバイトをしながらでも自分の力で夢を叶えることに決めた。

とりあえずパソコンで割高なアルバイトを検索したり、

手紙や情報誌がアパートに届くように手配しておいた。

今回のような割高のアルバイトの手紙が届くのはそういう理由からである。

いつもなら明らかに怪しいものは中身を見ないままゴミ箱に捨てるのだけれど、

ここまで胡散臭いと逆に気になってしまうものだ。

好奇心に駆り立てられて、封筒を破り手紙の続きを読んでみた。

「日給100万円のアルバイトをしてみませんか?

 アルバイト応募者16人で共同生活をしながら

 簡単なゲームをしてもらうお仕事です。

 最短3日から最長2週間までの参加が必須条件となっています。

 2週間も時間がとれない、

 またはすぐに目標の金額に貯まる方もいることでしょうから、

 3日以上参加して頂ければいつでも自由にやめることができるアルバイトです。

 もちろんその時点での報酬をその場でお支払い致します。

 ですが、他の参加者と協力することで期待値以上の収入も見込めるので

 最長の2週間まで参加されることをオススメします。

 将来の夢のために資金が必要な方は是非参加してみませんか?」

「予想通り、すっごく胡散臭いバイトだな……」

ゲームをするだけで1日100万円をもらえるなんて

本当だとしても何をされるかわかったもんじゃない。

不眠不休でキツい事をさせられる可能性だって十分にある。

僕は手紙を半分に折った後、強く握りしめた。

だけど、その反面では全く別のことを考えている自分もいる。

「上手くすると、たった2日間で目標の200万円が貯まるかもしれないのか……」

こんな風に前向きの捉えてしまうのは、もともとの自分の性格と

お金に関して相当追い込まれていたことが原因だったのかもしれない。

とりあえず落ち着いて考えてみようと、僕は胸に手を当てて深呼吸をした。

やっぱり、こういう甘い話には必ず落とし穴があるというもの。

目先の利益だけを追い求めると失敗することは、今までの経験から証明されている。

僕はしわくちゃになった手紙をもう一度元に戻して、話の続きに目を通した。

「詳しいゲーム内容につきましては、

 手紙の裏に記載されているゲーム会場にいらっしゃった際にお伝え致します。

 ゲーム自体は、どなたでも分かる簡単な内容なので心配には及びません。

 しかし、ここで一つ注意点があります。

 ゲームをしてもらうアルバイトとなっていますので、

 ゲームに失敗してゲームオーバーになってしまうと報酬は全く発生しません。

 ゲームオーバーになってしまった場合は、そのまま帰っていただきます。

 その点に関しては、深くご理解ください。

 あとは、当日に持参していただく物を説明します。

 ゲーム参加にあたって、当日は参加費をお持ち頂ければ

 他には参加者に必ず用意して頂く物はありません。

 泊まり込みのアルバイトですので、着替えなど必要となる物をお持ちください」

このアルバイトは、ゲームに成功しなければ日給100万円をもらえないらしい。

必ずしも報酬を手に入れることはできないのかと思って、肩を落とした。

甘い誘い文句を使い、参加者にはクリアできないゲームをさせて無一文で帰らせる。

つまり、労働力だけ搾取するという新手の詐欺ということだ。

こういうアルバイトなのだろうなと、自分の中で納得した。

その反面、僕はゲームならどんなジャンルでも人並み以上にはこなせる自信がある。

だから、もしかしたら上手くいくかもしれないと思ってしまう。

そんな相反する持ちを抱きながら、最後までしっかりと手紙に目を通した。

なぜなら、当日持って行かなくてはいけない参加費という言葉が気になったからだ。

「参加費用は100万円です。

 今、100万円と聞いてほとんどの方が驚かれることだろうと思います。

 しかし、我々はこの参加費は決して高くないと考えています。

 なぜならあなたが手にする報酬の期待値は、この100万円より遙かに高いからです。

 ゲームは決して難しいものではありませんし、

 皆さんには是非、賞金を手にして帰っていただきたいと考えています。

 もちろん強制参加ではありませんので、参加されなくても構いません。

 ただ一つ言うと、この手紙は限られた人にしか送っていない、ということです。

 不特定多数の方に手紙をお送り、

 難しいゲームをさせて参加費だけを徴収する、そんな事は決してありません。

 このチャンスを手にするか棒に振るか……人生の決定はあなたにお任せします。

 では、当日あなたに会えることを楽しみにしております」

僕は参加するために100万円も掛かるという、破格の参加費に目を疑った。

なんだか急に恐ろしくなって、手紙を地面に強く叩きつけた。

今まで頑張って稼いだ100万円もの大金を、

こんな怪しいアルバイトに使えるわけないだろう。

そもそも、こんな怪しい手紙に引っかかる人なんていないだろうと

おかしな笑いがこみ上げてきた。

僕は手紙を拾い上げて、自宅のゴミ箱に捨てるために家へ入った。
作品名:ミリオンロール 作家名:まつ葉