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雪女

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 明治時代の話です。
 恒吉は吹雪の中をよろけながら進みました。
 右手に金庫を抱え、左手には猟銃を持っています。
 恒吉は追われていました。そう、警察に追われていたのです。

 恒吉は東北のある村に住んでいました。
 ある日、行き倒れていた若い娘を助けたことが縁となって、その娘と結婚しました。娘の名は「ユキ」といいました。
 恒吉は幸せでした。子どもこそいませんでしたが、ユキが側にいてくれるだけで満足でした。
 ユキは気立ても良く、美しい娘でした。皆、恒吉のことを羨ましがったものでした。
 特に名主は妻子があるにも関わらず、ユキに密かに想いを寄せていました。そして何とかユキを自分のものにしようと悪い企みを立てていたのです。
 ある日、名主は村中にユキが「雪女だ」と噂をばらまきました。その噂は瞬く間に村の人々に伝わりました。
 こうしてすっかりユキは雪女にされ、恒吉は化け物と結婚した男などと呼ばれました。
 そこで名主は「どれ、わしが雪女かどうか確かめてやろう」などと言って、無理やりユキを屋敷へ引っ張り込んだのです。
 名主の屋敷に連れてこられたユキがどのような目に遭ったかはわかりません。しかし翌日、ユキは恒吉の元へ戻って来ました。
 恒吉は大層喜びましたが、ユキは悲しそうな目をしています。
 ユキは名主の屋敷にあった金庫を恒吉に差し出して言いました。
「これを持ってお逃げ下さい」
 そして恒吉の返事を聞かないまま、ユキは姿を消したのでした。
 その頃、名主の屋敷では凍りついた名主の死体が発見されていました。そして金庫が無くなっていることもわかったのです。犯人はユキと恒吉だろうということになりました。早速、警察も動き始めました。
 恒吉は名主を殺したのはユキだと思いました。しかし、ユキを責めるつもりはまったくありません。ただ、心残りなのはユキが姿を消してしまったことです。
 こうして恒吉はユキの罪を被り、名主の金庫を抱えて一人吹雪の山中を逃げ、あてもなく彷徨うことになったのです。

 恒吉が山に入ってから何日経ったでしょうか。
 恒吉の手の指は凍傷で紫色に変わり、もう感覚がありません。猟銃は持っていても、おそらく引き金を引くことは出来ないでしょう。
 それに寒さと飢え、そして疲れで恒吉は今にも倒れそうでした。それでも恒吉は必死に命ある限り歩きました。
作品名:雪女 作家名:栗原 峰幸