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長子の悲哀~がんばれ、お姉さん!~

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私は次女で末っ子なので、長男長女が受けるプレッシャーを知らないで育った。

姪のアヤネはまだ四歳だが、一歳の弟・シンタロウがいるので、否応なしに「長女」だ。

彼らの母親である私の姉も長女なので、自分の味わった長子の辛さを、アヤネに味あわせたくないと言う。子供たちを差別なく育てているつもりだ。

私から見ても、姉はわが子二人を公平に育てている。

「アヤより小さい子だから、シンくんをぶたないでね」程度は言う。

「アヤは優しいお姉さんだね」と褒めもする。

姉は「お姉さんだから○○しちゃだめ」と、アヤネには絶対言わない。「お姉さんだから我慢しなさい」の決まり文句に、姉自身、傷ついてきたからだ。

ところが不思議なことに、アヤネは「お姉さん」の言葉に反応して、自分自身にプレッシャーをかけていたのだ。

子供は、親の期待に応えようと無意識的に思うものだと、聞いたことがある。

アヤネも、口には出さない母親の意向を汲み取ったのかもしれない。母親の心遣いも虚しく、アヤネはプレッシャーを荷なう一人の「長女」になってしまった。

結果、弱冠四歳にして、長子の悲哀を知っている。

弟のシンタロウは乱暴な赤ん坊なので、気に入らないとアヤネを叩く。

アヤネも手を振り上げるが、拳は宙で止まり、歯を食い縛って我慢。

一方、暴君シンタロウは、調子に乗ってまたアヤネを叩く。アヤネはさらに我慢する。

私が「ぶち返せ!」とけしかけても、我慢は続く。母親を驚くべきスピードで盗み見て、我慢し続ける。

こんなこともあった。

アヤネとシンタロウが遊びに熱中しすぎて、うっかり頭をぶつけあった。

シンタロウはアヤネを責めるように泣きたて、母親に言いつけに行く。

どちらが悪いわけでもない。アヤネも痛かったはずだ。

アヤネは、弟が母親になだめられているのを、頭に手を当て、ただ黙って見つめている。

そして、笑い出した。

大人たちは、アヤネまで泣き出さなかったことに安心し、「ぶつかったことが面白かったんだね」とのんきに言う。

子供をかいかぶっている。笑い声はわざとらしく、渇いた響き。

「シンくん、もう泣かないの。ほら、お姉ちゃんは笑っているよ」母親さえも安心している。

いたたまれなく私は思った。

笑うことで痛みを堪えているのか。笑うことで母親の関心を引いているのか。堪えたのは痛みだけだったのか。

アヤネだって十分小さい。こんなに小さいくせして、涙を笑いでごまかすことを発明した。

シンタロウの泣き声もおさまり、誰もの関心が幼い姉弟から雑事に移った頃、アヤネは部屋の隅に座っていた。

私の手が彼女の頭に触れようとした瞬間、彼女はグイッと袖で目元を拭った。

そのとき、アヤネを抱き締めてやれば良かった。が、堪えた涙を誘って彼女の努力を無駄にしてはいけない気がした。私は洗面所に駆け込み、不覚にも泣いてしまった。

私は長子の悲哀を知らない。

二回り年上の私が知らなくて、四歳のアヤネが知っていることがある。それにかけては、アヤネは私より「お姉さん」なのだ。

私が我慢できなかった涙をアヤネは堪えた。長子という運命を受け入れ、悲哀さえも承知していた。

小さな背中はこわばってはいたが、その力みを1本の芯に変え、強くなろうとしているようにも見えた。

せつないが、長子の悲哀は、きっと「お兄さん」「お姉さん」になっていくのに不可欠な要素なのだ。

ただ、孤独にはならないよう、いつも見守る誰かにそばにいてほしい。

世界中のお兄さんお姉さん、ありがとう。

私たち弟妹たちを許す度に染み着く悲哀は、あなたたちの背中を大人っぽく見せて、いくらがんばっても追いつけない憧れを、むしろ私たちに抱かせていたのです。

嫌がるあなたたちのあとをついて回っていたのも、そういうわけです。



<おわり>