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つだみつぐ
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novelistID. 35940
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ひとつだけやりのこしたこと

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4年 2010年09月28日 12時13分


そのとき
わたしは大村湾沿いのさびれたレストランの駐車場に車を止めた。ひとり涙をふいた。
少し前、空港へ向かう車の中でさとみはとても真剣な口調でとても言いにくそうにわたしに告げた。
あと4年、定年まで今の仕事をしたいこと。だからわたしと暮らすのが2014年の末になること。
ごめんなさい。ごめんなさい。

予想していたよ、気づいていたよ、とわたしは言った。ずっと言いたかったんだよね、言えなかったんだよね。

さとみは前には来年の9月には仕事を辞める、それからわたしの所に来る、と言っていた。

涙がにじんだのはさとみと別れて空港からしばらく走ってからだった。
もうすぐ一緒に暮らせる。それはたぶんわたしの希望のすべてだった。指折り数えた。

4年なんてすぐだよ、とさとみは言う。
わたしには4年と永遠の区別がよくつかない。

車の中でわたしは気を取り直そうとした。とにかく、メールを打とう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「きっとたくさん考えてたくさん悩んで勇気を振り絞ってわたしに言ったんだよね。
大変だったね。
でもちゃんと自分で決めてちゃんと言えたね。
さとみ。
よかったね。
おめでとう。

あとはね、つださんの課題。
ちゃんと待つこと。
せかしたり泣き言を言ったりしてさとみを悲しませないこと。

あと1年だったけどあと4年か。
さとみと出会ってからの時間より長い年月。

今日一日だけ悲しんでいてもいいかな?明日には立ち直るから。

ごめんね。

ねえ
今日だけタバコの本数を20本にしようと思う、今日だけ。いいかな?」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−


だけど、その翌日にも、その次の日にも、わたしは立ち直らなかった。


さとみ。
怒っているんじゃないんだよ。恨んでいるんじゃないんだよ。ほんとうだよ。

ただ哀しみをうまく処理できないだけなんだよ。さとみの問題じゃないんだよ、わたし自身の問題なんだよ。

たぶん、一度うつになったことのある人間はダメージにとても弱くなるんだよ。簡単にうつの気分に戻ってしまうんだよ。
少し前に仕事上の挫折があった時もわたしは過剰に落ち込んだよね。いまでもそこからほんとうには立ち直っていないよね。
今回は何もする気がなくなるほど落ち込んではいないよ、がんばれば畑仕事もできるよ、でも一人でお茶を飲んでいるとやっぱりさびしさで何もしたくなくなる時がある。

呆れちゃうよね。こんなに、自分でも信じられないくらい弱くて寂しがりやなんだ。


いまわたしはわたしが頼れるただ一人の人に頼る。

さとみ。
わたしをささえて。
一緒に泣かないで。笑って。
大好き、って言って。