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8月の花嫁

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1.

私が大学2年の時
2つ上の先輩に誘われて読者モデルのバイトをしていた
今もあるティーン向け雑誌の…

ふたつ上の先輩 彼女はとても奇麗な人だった
目鼻立ちの整った顔 スタイルも抜群でおまけに性格も良い 
だからもちろん大学のマドンナ ミス大学は当たり前 
私も密かに憧れていた

私と言えば
背丈はまあ先輩と同じくらいだとしても 水泳をしていたので背中は広いし
腕っ節 筋肉ついちゃってます見たいな だけど痩せすぎてヘンテコな身体つき
顔と言えば童顔で どう見ても男の子ですかって感じ

な・の・に

いくら人が足りないと言っても私をカメラマンに会わせるなんて
無謀すぎです 先輩 
まぁプロからしたら私なんぞ お断りよ 
先輩 お役に立てずにごめんなさいねと 内心思っていた

だ・け・ど

「彼女 いいじぁないか 可愛くって 採用」
「でしょ」
「え~っ」

このカメラマン おかしいよといいつつも 
バイト料の高さと食事つきに釣られて契約成立



2.

初めての仕事は 春のキャンバスファッションと新作バッグ特集

慣れない私は緊張の連続 撮影現場は初めて見る世界
たくさんの人の手が3~4ページの為に全力を注ぐ
プロではない私達に いえ先輩はともかく私に

大学の構内で
憧れの彼女は春風に舞う乙女な淡いパステルカラーのワンピースでエレガントに
しなやかな黒髪が風に揺れてきれいだった 見ている誰もがため息をついた

私はショートの髪を幾つも編み込んでキュロットパンツに薄手のカーディガンを
肩に羽織っていた いわゆるボーイッシュって感じ 
プロの手はすごい 私が私じゃないみたい 
先輩が
「やだ可愛い~」と言う 私も自分を認めちゃう 

カメラが私たちに向けられる 緊張でこわばる私の作り笑顔
「緊張しないでいつもの様に笑って」ファインダー越しにカメラマンは言う
たくさんの人の目やカメラを向けられていつもの様に笑ってって言われても
私 初めてなんですから
NGの連発 撮影がなかなか進まない 
どうしよう…余計プレッシャーがかかった

その時

「少し 休憩しよう」
ほっとして肩をどっぷりと落とす私
「大丈夫 初めてにしては上出来だよ」肩にポンと手を添えきたカメラマン
なんて良い人なの 私は満面の笑みを彼に向けた
「ほら その笑顔だよ 出来るじゃないか」
「はい」現金な私 
この時 彼の顔を初めてまともに見た気がした
素敵…最初にそう心が叫んだ 程良く日焼けされた肌 少し長い前髪から見える優しそうな瞳 口角を左に上げて笑うと白い歯がこぼれて見える薄い唇 

「ねぇ~風船遊びしよう」先輩の声に私は彼から視線を外した
「えっ」
何処から持ってきたのか 手のひらいっぱいの赤や青のゴム風船
先輩ったら いきなりその中のひとつをふくらました 
大きく膨らんでいく赤い風船
「風船バレーボールね」と 彼女はその風船を私の方へと投げた
とっさに出た私の手はその風船を彼女に返す
何度か繰り返されると楽しくなってきた

どちらかが落とすと
「へたくそ~」と声がかかる

撮影を忘れて夢中になっていた

カメラはそんな私たちをしっかりと追っていて
もちろん撮影は最高の作品を収めて終了した



3.

もうひとつの楽しみでもあったその日の食事はフレンチ
大好きなキッシュに冷たいじゃがいものスープ ビシソワーズ
満足 満足 人間の3大欲のひとつが食欲だから

スタッフの人達と仲よしになり話も弾む
カメラマンの彼も相変わらず優しい
彼を見れば見る程に話し方もしぐさも大人で いや実際に大人なんだけれど 
やっぱり素敵 ワインのせい? うっとり私の瞳 トロ~ンと彼を見ている

何度か仕事をしているうちに 私は彼にほのかな想いを抱くようになっていた
仕事が終わっても私たちは彼と共に過ごす時間が増えた 嬉しかった
もちろん先輩も一緒なんだけど
そう彼と先輩 自然に仲が良かった そう言えばいつも彼の隣には先輩がいた
そんな二人を私は羨ましく思っていた でもそんなふたりを見ているのも好きだった
似合いのカップルだと周りは囃し立てる 私もそう思っていた 少々胸は痛んだが
でも 彼は結婚していた 左手の日焼けした薬指に 白く残るリングの跡
切ないくらいに鮮やかで….



4.

6月の終わり 
いつもの様に撮影が終わり食事を終えてホテルのラウンジに彼と先輩と私 
「8月の初めにグアムで撮影があるんだけどふたりとも予定はどうかな」
「うそっ 海外ロケってやつね 行く行く!! 絶対行く!」先輩は大乗り気
私…無理 無理 絶対無理
「すみません 私パスです」
「どうして」って 先輩 理由(わけ)は聞かないでください
「何がダメ?ご両親?それはちゃんと話に行くよ」
「いえ…そうじゃないんです」
「じゃなんなの」先輩怒ってる? 
だから私は…私は
「高いところがだめで 飛行機には乗れない」
「なんだそんな事」先輩そんな事って私には大変なことですよ
「たかが3時間で着いちゃうよ」
「そうよ なんならお酒飲んで寝ちゃえばあっという間に着いてるわよ」
なによ 二人して 結局私は行く羽目になった




5.

当日
空港に着くもスタッフのひとりが
「なんか顔色悪いね大丈夫?」
「気にしないで この娘いつもこうだから」
先輩 嘘おっしゃい いつもじゃないっしょぉ 飛行機が...飛行機が...
私をこのような状態にしているのよ 先輩のいけずぅ~

機内での座席は彼と先輩 その後ろに私とスタッフ 窓際パス なるべく通路側に
私の手が汗ばんでいる 蹲る身体 
「大丈夫?」メークさんの声
「はい 気にしないでください」
何気なく前の席を見る 例のふたり 楽しそうに会話している 聞こえないけど
くっ付き過ぎじゃない ずるいよ先輩

いよいよ出発 ゴーォォォォォと大きな機械音
まずい….. まずいよ 身体が上昇して行く~~~~~ 



6.

グアム島 
見あげた空は 何処までも続く真っ青な空と ところどころに浮かぶ白い雲
海は果てしなく蒼い 風は爽やかに私たちの髪を優しく撫でて通り過ぎていく

島に着いた時点ですでに私は酔っ払い

機内での恐怖のあまりにアルコールをつぎからつぎへと飲んでいた
ちょっとでも機体が揺れるものならば 落ちる~と大騒ぎ
その度に
「すいません ワインを下さい」
「お替わり下さい」
「もう一杯 お願いします」と
のにもかかわらず まったく効かなかった

で 

タラップを降り地面に足が着いたとたんに安心したのか 開放感からなのか
アルコールが 私の身体の全身を巡り 気分はもうHigh Tension
散々はしゃいでいつの間にかベッドに横になっていた


7.
目が覚めたのは夕暮れ時だった
ホテルのバルコニーを大きな夕陽が オレンジ色に染めていた
私と先輩は同じ部屋 ベッドから起きて彼女の姿を探した 
シャワー室 トイレ 冷蔵庫 こんな所にいるわけない 
作品名:8月の花嫁 作家名:蒼井月