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御主人様と御姉様と私

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・契約:御姉様


「これ、欲しい?」

即ち契約の証。
私は躊躇せずにそれを受け取る。
サイズがぴったりで何だか嬉しくなった。
小さなクロスが可愛いシンプルな革の首輪。

「忠誠の証に」

私はリングを渡す。
測らずともサイズは解る。

「身も心も灰になるまで」

御姉様は微笑んで優しくキスをしてくれた。







・愛しい御姉様


「愛しています」

私が御姉様に毎晩言っていた言葉。

「私もよ」

そしてキスをして同じベッドに入る。
そんな生活が当たり前になった時、離ればなれになる怖さが二人を蝕む。
私は御姉様を支えるのに必死で気付かなかった。
世間の目はとても冷たかった。きっと異性ならこんな事には。







・可愛い御姉様


どんな服でもどこに居てもアームウォーマーを外さない私の御姉様。
ある日合鍵を貰い喜ぶ私に優しくキスをして別れた。

翌日仕事が遅くなって夜中にお邪魔すると灰皿一杯に血の池を作って泣いていた。
手当てを済ませて抱き締めると落ち着いたのかキスをせがんで来る。
可愛い御姉様。







・さようなら


「ごめんね、ごめんね」

御姉様は男の人を知ってしまった。
もう私とは一緒に居られない。
何を言っても謝る事しか出来ない御姉様を苦しめたくなくて、
私は最後に、と全てが刻まれた手首にキスをした。

御姉様と一緒に居た証を残したくて、剃刀を買って帰った。







・アルバム


目の前の御姉様は私に微笑み掛けた。
私も思わず笑顔になる。
ページを捲って他の人へ向けられているものだと解ると、切なくなった私は家を飛び出した。

小雨がぱらつく中立ち寄ったコンビニで無意識に取った缶コーヒーは、
前の御姉様が仕事に疲れた私によく差し入れてくれた物だった。







・御姉様の幸せ


無意識のうちに御姉様の行動範囲を彷徨っていた事もあるが、
運命の悪戯か皮肉にも見付けてしまった。
隣に男性が居る。先回りして狭い通路に入った。
装飾品に偽装した短剣を抜く。
鈴の音のように美しい笑い声が聞こえて来る。
やっぱり御姉様の笑顔を失いたくなくて、自分を斬った。







・猛暑日


初夏を迎えたばかりのある猛暑日。
熱に浮かされ意識が朦朧とした私の足は重力に負ける。

「大丈夫ですか!?」

手を着く事も出来ず無防備に倒れる私を学生服の青年が受け止めた。

「日陰に入りましょう」

近くの木陰に入り手渡された水に口を付ける。
更に熱が上がった初めての間接キス。







・約束


先日知り合った青年にお礼がしたいからと連絡先を聞いた。
彼はとても喜んでいる。
私の事が一目で気に入ったと言っていた。
まだ御姉様の事が頭から離れないけれど、彼が幸せならばそれで良かった。
近いうちに旅行する約束をした。

……御姉様とも行った事無いのに。






・罪と罰


車を借りて出掛けた。
私が疲れて運転を代わって貰い、手渡されたお茶を飲んだら気が緩んだのか眠たくなった。

気付けば樹海の道無き中を走っている。
彼は車を止め、目の色を変えて私に襲い掛かる。
散々乱暴した後にナイフを振り上げた。
上がった鮮血が他人の物で彼は逃げ出した。







・夢の世界


「死に…ない、よぉ…」

声を絞り出して必死に懇願する御姉様の指先は私の頬を擦めた。
私は優しい言葉を掛けてあげる事が出来ない。
だってもう助からないから。

「やだ、よぉ…」

私は抱き締める事しか出来なかった。
御姉様も私に腕を回す。
頬を寄せ呼吸を合わせて夢の世界へ。







・御主人様


「ここに居たぞー!」

嵐の森で救出された少女は保護されてからも人を見る度に酷く怯えていた。

「彼女は私が見るから他の子をお願い」

まともに事情聴取出来ない精神状態であった為ある医師が受け持つ事となる。
ある日の朝、医師が顔を出すと少女は小さく口を開いた。

「…御主人様」







・病室


「御姉様」

面会時間はとっくに過ぎた病室。
私は寝ずに仕えている。
目を覚ました御姉様に呼び掛け、白くきめ細かい美しい肌に伝う激痛から来る脂汗を拭った。
肩甲骨に舌を這わせ、傷口にキスをする。
痛みが私と共に生を分かつ実感をくれると言う。

「ありがとう」

礼には及びません。







・契約:御主人様


「欲しいか?」

即ち契約の証。
私は躊躇せずにそれを受け取る。
足首に付けると無いはずの鎖と鉄球が私を縛る。
初めから逃げる気など無いけど。

「忠誠の証に」

私は十字架の短剣を渡す。

「身も心も灰になるまで」

御主人様は抜き身の剣で私の顎を持ち上げ、
優しくキスをしてくれた。







・ずるい人


目隠しをされ、手足を縛られて身動きの取れなくなった私を甘く誘惑していく。

「貴方ってずるい人」

抗っても喜ばせるだけ。
でも今屈したら…。
全身が溶けるような感覚に絶対服従を強いられる。

「もう、好きにして」

耳元で薄ら笑いを浮かべるのは睡魔と言う名の御主人様。







・退院祝い


もうすぐ退院祝い。

「御姉様って何が好きなんでしょう」

御主人様に聞いた。

「これかな」

言いながらステッキで天井を一突き。
ボトルラックが降りて来た。

「これが一番お気に召したようだ」

高級と言う訳でも無いけれど御姉様らしく渋いチョイス。

「あとはグラスの準備が必要だ」







・祝いの杯


「ほ、本当にやるんですか?」

私は思わず御主人様に聞く。
勿論、と言わんばかりに微笑むと私の鎖骨にワインを注ぐ。

「あら美味しそう」

部屋に入ってきた御姉様が嬉しそうに口を着けた。

「っんあ…」

思わず声を挙げると御姉様の目付きが変わった。

「ふふ、もう一杯頂けるかしら?」








・嫉妬


私の全ては御主人様の物であり、御姉様の物。
でも御主人様は御姉様の物でもあり、御姉様は御主人様の物でもある。
今まさに二人は愛し合っている。

誰にも渡さないんだから。

「俺もこいつもお前を捨てたりはしない」

「欲張りな子ね」

半狂乱だった私は二人に抱き締められて眠った。







・手中


御主人様と御姉様に今の地位に不満はあるかと聞かれた。

「私は幸せです」

御二方に愛して貰えるのだから。
でも、時には二人に求められると辛く感じる事もある。
私は常に本音を隠して生きている。
従順に仕える自分自身に愛しさを覚えながら。

でも私の心は既に手中にあるのでしょう?







・お仕事:朝~


朝の慌ただしい時間。
御姉様に挨拶のキス。
お化粧をして貰って御主人様に挨拶のキス。
そのまま車で送って貰う。
御主人様はその足で得意先に、それから御姉様と合流して私の元へ。

お昼頃、御二方へ再開のキス。
一緒に昼食を取り、私は遅くまで編集に励む。
重役出勤が少し羨ましい。







・お仕事:夕~


「笑顔が一番似合うな」

輝いている時はスイーツのご褒美を下さる御主人様。
更に高みを目指す。

「今日は順調?」