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金銀花

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《02》欲しかった弟



 次の日の朝、早苗は下女たちの朝餉の支度を手伝っていた。
助三郎は未だ布団の中だった。


「早苗さん、千鶴は調子が悪かったけれど治ったかしらね?」

「はい。治れば良いのですが」

 そんな話をしながら早苗と義母の美佳は朝餉の支度を終えた。
助三郎と千鶴は一向に起きて来る気配はなかった。
 美佳は仕事を終えた下女に声をかけた。

「そろそろ、起こしに行ってくれるかしら?」

「はい」

 美佳は、息子も娘も起きて来ないことに不満顔だった。

「二人とも寝坊で。一体誰に似たのかしら……」

「そうですね」


 そこへ突然、下女の叫び声が聞こえた。

「キャー!!!」

 そのあとすぐに、若い男の焦った声が聞こえた。

「俺…… じゃないわたしです! 逃げないで!」

「曲者! 奥様、曲者がお嬢様の部屋に!」

 その声に早苗と美佳は、急いで千鶴の部屋に向かった。

「どうしたの?」

「奥様、曲者が…… あそこに」

 腰を抜かす下女の指先には、布団の上で若い男が怯えていた。
すぐさま美佳はその男に向かって怒鳴った。

「娘の寝所に忍び込んで何をした!?」

「母上、私です。千鶴です!」

 男は美佳に向い必死に訴え始めた。
しかし、男が女のわけがない。
美佳は怪しい男をどうにかしようと、息子の名を呼んだ。

「白々しい嘘をつくでない! 助三郎、曲者です!早く!」

 退治しようと動き出した義母のそばで早苗はなぜか、危機感を感じなかった。
そして冷静に義母に告げた。

「母上さま、あの人まだ寝ています……」

 すると美佳はもう一人の息子に頼ることにした。

「早苗さん、危ないから今すぐ格之進に変わりなさい!」

「はぁ……」

 そう言われても、早苗はそこまでして若い男を追い払う気にはなれなかった。
そしてそっと若い男に近づいた。

「早苗さん。危ない! 下がりなさい!」

 しかし、早苗は義母を無視し、じっと観察した。
男の顔をよく注意して見れば、兄の助三郎、ましてや以前墓場であった義父、龍之助にそっくりだった。

「義姉上。信じてください……」

そう悲しそうにつぶやく声も助三郎に似ていた。

「……貴方、もしかして、千鶴ちゃん?」

 早苗はまさかとは思ったが、念のために聞いた。
すると、若い男は眼を輝かせて早苗に向って話し始めた。

「そうです! 千鶴です。わかってくれますか? 起きたらこうなってたんです。なにがなんだかわからなくて……」

 早苗は眼の前の男を義妹として認めた。
尚も疑う義母を安心させるために、穏やかに告げた。

「義母上、この人は千鶴ちゃんです。間違いありません」

すると美佳は眼を丸くして、男を頭のてっぺんから足の先まで眺めた。

「ウソでしょう? 千鶴が? はぁ……」

 そう言ったが最後、強いはずの美佳は気絶した。
息子が女になっても動じなかったが、娘が息子に変わったのには驚きすぎたようだ。
 早苗は美佳が畳に倒れかかった所を支え、頭を打たないよう庇いに入った。

「義母上さま、大丈夫ですか!?」

しかし、身体をゆすっても、下女が持ってきた冷たい手拭いで頭を冷やしても気絶したままだった。

「あの、若奥様どういたしましょう? お部屋で横になられた方が良いと思いますが。男衆を呼びましょうか?」

 気の利く下女がそう言うと、早苗は起きてこない夫を恨んだがすぐさま気分を切り替え自分で運ぶことにした。朝の忙しい時に余計な迷惑を下男下女にかけさせたくはなかった。

「わたしが運べるから。部屋に布団敷いてくれる?」

「はい」

 早苗は格之進に変わり、美佳を抱き上げ部屋に運んで寝かせた。
こういうときに、男に変われる能力は大変便利だった。

「さすが、若奥様。力がお強い」

 早苗の男勝りな行動を若い下女が見て感心した。
しかし、早苗の反応はいまいちだった。

「褒められてもあんまりうれしくないな。それに、この格好の時に若奥様はな……」

 男の姿の時は『格之進』と呼べと言い聞かせてあった。
外聞もあるが、何より男に『奥様』はおかしい。

「申し訳ありません。格之進さま」

「いいや。こっちこそ迷惑掛けて済まんな。下がっていいぞ」

 早苗は女に戻ると、可哀想な千鶴に近寄った。
彼女はすぐさま、申し訳なさそうに早苗に詫びた。

「申し訳ありません…… 私のせいで…… 朝からいろいろと」

「気にしないで。それに、それだけ姿が急に変わったら、誰だって驚くわ。
わたしだって助三郎さまが美帆になった時取り乱したから」

 叫びこそしなかったが、驚いて頭が真っ白になった。
寝ているはずの夫が居なくなり、代わりに女が現れたら誰でも驚く。
 娘の部屋に男が夜這いをかけたら、どんな母親だって怒る。
あたり前のことだった。

「でも、ほんとに変わっちゃったわね…… 着替えた方がいいわ」

 早苗は義妹の姿を眺めていたが、眺めている彼女が恥ずかしくなって来ていた。
千鶴は背がずいぶん伸び、背が高い兄の助三郎と同じ位になっていた。
肩幅は広くなり、男の体型。
 そのおかげで、女物の寝間着が合わなくなり人には見せられない、みっともない格好になっていた。

一通り確認し、改めて落胆した千鶴は悲しそうに早苗に聞いた。

「あの…… 普段の着物着られませんよね? こんな姿じゃ」

「そうね。可愛い着物は似合わないから…… 可哀想だけど、助三郎さまのお下がり着るしかないわね」

 早苗は早速物置へ向い、古い着物を何着かと、袴を持ち出し千鶴の前に置いた。
しかし、男嫌いの千鶴。
たとえ自分の身体とはいえ、見たくもないに違いなかった。
それに若い女の子には目の毒に違いない。

着替えを前に案の定固まっている千鶴に早苗は声をかけた。

「着替え、手伝おうか?」

「え? それは、ちょっと……」

 千鶴は女に見られたくはないという表情をしていた。
そこで、早苗はこう聞いてみた。

「助三郎さまは?」

「もっとイヤです!」

 あからさまに嫌がる千鶴を見た早苗は最終手段で、男に変わった。

「姉貴にも兄貴にも見られたくないか?」

「はい。同性に見られるのはちょっと…… 兄上は何となくイヤです」

「俺はどうだ?」

「大丈夫です」

 同じ中身が女の男同士、そのほうが気分的に楽だったようだ。
早苗は早速義妹の着替えを手伝い始めた。

「目をつぶってていいからな……」

 秘薬で得た秘術で男に変われる早苗は変身と同時に着衣も変えられる。
それ故、着替えをほとんど男の状態でしたことがない。
 一度女に戻れなくなった時にしかたなく一通り着方を覚えた。
恥ずかしくて、死にそうになったこともあったが、必死に堪えてやり過ごした。
 その経験を今生かせることができた。


「よし、出来た。中々な男前だ。鏡見たか?」

 姿に合わせた着付けをすると、良い感じの若侍が出来上がった。
助三郎に似ているので、早苗好みの男だったようだ。
ニコニコ笑って義妹を眺めていた。

「助三郎に似てかっこいいいぞ」

 男の姿の時でも、夫が大好きな早苗は平気で夫を褒める。
そのまま抱きつくこともしばしばだった。
作品名:金銀花 作家名:喜世